◆9月に入るとチームがゾーンに突入

 その考えは育成という部分にも影響を及ぼした。たとえば敗色が濃厚な試合では、経験を積ませるため若い選手に投げてもらう。中﨑(翔太)や戸田(隆矢)はそういう経験が積み重なって、次第に勝ち試合で投げるようになり、重要な場面で投げるようになっていった。

 目の前の勝負にこだわりながら、若手の成長も促していく。それは投手陣全体、チーム全体を考えることによって、それぞれの起用法がよりはっきりして、選手たちが順繰りに花を咲かせていくことに繫がるのだ。

 9月に入ると「何もしなくても選手が勝手にやってくれる」というゾーンに入ったような試合を何度か体験した。10日間くらい、僕はほとんどサインらしいサインを出していない期間があった。ピッチャーの起用だけ決めてあとはベンチでじっと見ていると、選手が勝手に打って勝手に勝ってくれるのだ。

「初めてだ、こんなの……これがずっと続いたら監督をやってて楽しいだろうな」と思ったほど、それは本当に夢見心地だった。9月の10日から17日までは7連勝を記録。前年は同じ時期に8連敗があったが、それがちょうど逆になった格好だ(2012年は9月11~25日が1勝11敗、2013年は9月10~21日が9勝1敗)。

 この年はCSに行けたこともうれしかったが、それより2年続いた「9月の失速」をやっと打ち破れたことが本当にうれしかった。そのときはテレビやメディアも「今年は落ちませんでしたね」と褒めてくれたが、「もっともっと言ってくれよ!」と思うくらいチームの成長が誇らしかった。