◆2つの忌まわしき過去からの訣別

 連勝の最中は、とにかく自分に「動くな」と言い聞かせていた。頭の中ではいくつも作戦を立てるが、それを実行しようとするな、バントもするな、と。今のこの空気を壊さないようにすることだけを考えていた。コーチとのミーティングでも「今はチーム状態が良いから僕から言うことは何もない。気をつけるのはケガだけだ」と話していた記憶がある。

 とりわけマツダスタジアムでの巨人戦3連戦3連勝(9月14日~)は広島中が盛り上がったと聞いている。でも僕は街の様子を感じる余裕なんてなかった。試合が終わっても監督室でホッとするだけだった。

 というのも、この時期周囲は「もうCSは確定だな」という雰囲気になっていたが、僕はまったく安心していなかったからだ。このチームは連勝のあとに連敗もあるということが身に沁みてわかっているので、油断せずに目の前の試合に集中するよう心掛けていた。

 そしてCS出場を決めた9月25日の中日戦。スコアレスの投手戦の中、エルドレッドの一発で2対0で勝利。これも実にカープらしい勝利だと思った。ピッチャーが頑張ってくれて、終盤にエルドレッドの一発で勝ち切るという戦い方。

 個人的にはこのメモリアルな瞬間をナゴヤドームで迎えられたことがうれしかった。これまで競った試合をことごとく落としてきたこの球場で、競った試合を制してCS出場を決めたのだ。

 この年は中日に13勝11敗と勝ち越し、「中日への苦手意識」「秋からの失速」という2つの忌まわしき過去にようやく訣別できたような気がした。

●野村謙二郎 のむらけんじろう
1966年9月19日生、大分県出身。88年ドラフト1位でカープに入団。プロ2年目にショートの定位置を奪い盗塁王を獲得。翌91年は初の3割をマークし、2年連続盗塁王に輝くなどリーグ優勝に大きく貢献した。95年には打率.315、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2000安打を達成した05年限りで引退。10年にカープの一軍監督に就任し、積極的に若手を起用13年にはチームを初のクライマックス・シリーズに導いた。14年限りで監督を退任。現在はプロ野球解説者として活躍中。