2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
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 8月31日にはエルドレッドが帰ってきた。これで一発で空気を変えられる存在がエルドレッドとキラの2枚になり、相手ピッチャーに与える脅威が倍増した。

 あとはその時期、投手陣では横山(竜士)と永川(勝浩)の2人のベテランが奮闘してくれた。実はこれには計画性があった。以前からピッチングコーチと話をして、この年は第6の先発と中継ぎに関しては固定するのではなく、連投して疲れてきたら二軍に落として調整するという方針を固めていた。

 ある意味、シーズン当初に掲げていた「そのとき調子の良い選手から使う」という選手起用を実践したということである。選手をずっと使い続けていると疲労が溜まり、力は落ちてくる。そういうときは下で充電して、また戻ってきてもらいたいし、その間はすでに充電ができている別の選手に頑張ってもらう。だから夏場以降に横山と永川が出てきてくれたのは、予想通りのシナリオだった。

 それは中継ぎのローテーションとも言えるし、投手陣全体の総力戦で試合に臨んだとも言えるだろう。監督就任1年目は一軍の選手だけで戦っていたが、この頃になると僕もチーム全体で戦うことを意識するようになった。

 また、そのような考え方になると、選手を二軍に行かせることにも抵抗がなくなった。やはり選手としては「また必ずおまえの力が必要になるから」と言われても、二軍に行くのはイヤなものだ。疲労が溜まっていても一軍に留まりたいと思うのが選手というものの本能である。

 しかし、この2013年から僕は選手に遠慮しなくなった。だから廣瀬(純)を落としたり、(栗原)健太を落としたりもした。それは一軍も二軍も関係なく、そのとき調子の良い選手を引き上げるという大命題があったからだ。