石原慶幸氏が2020年シーズンをもって現役を引退した。2002年に入団し、カープ一筋19年。長きにわたり投手陣を支え続けた名捕手の引退に際し、気心知れた新井貴浩氏との特別対談を全4回にわたってお届けする。
◆現役ラストの2020年は苦しいシーズンだった
─ 引退されてから少し時間が経ちましたが、今はどんな時間を過ごされていますか?
石原 今はすごくゆったりした時間を過ごしていますね。引退してからは毎日のプレッシャーがなくなったので、来季のことを考えたり、次の日のことを考えなくても良くなりましたしね。
─ 毎日行っていたトレーニングをしないことに違和感はありますか?
石原 まったくないですね。これでいいのかなと思うくらいです(笑)。
─ 改めてお伺いしたいのですが、引退を意識された時期を聞かせてください。
石原 意識した時期、瞬間ははっきりとはないですね。自分の中でチームの力になれていないなと感じたときは辞めないといけないと僕は思っていたので、今年たまたまそう思ったので引退を決断しました。時期はシーズン中ですね。
─ 引退を決断するにあたり、いろんな方に相談されたのですか?
石原 黒田(博樹)さんと新井さんだけに、『僕はこう思っています』と話をしましたが、最終的には自分で決めました。
新井 本人もそう考えているだろうなというのは、感じていましたね。俺は否定も肯定もしなかったよな?
石原 そうですね。
新井 シーズン入ってから、最初はなかなかマスクをかぶらなかったですけど、すごくしんどい事だったと思うんですよね。自分の居場所はどこなんだと。今年に限っては3試合だけ、引退試合を含めると4試合。それはずっとしんどいだろうなと思っていました。そういう状況で一回、ファームに落ちましたよね。それでまた一軍に上がってすぐの試合でケガ……。あの時に『あ、これは本人の中では今年決断するのかもしれないな』と感じました。
石原 新井さんが言う通り、野球選手として試合に出たいという気持ちはもちろんありました。ですけど、そこがきっかけとかではなく、自分にできることがなくなれば……ということもありましたし、自分の中ではすごく苦しいシーズンだったというイメージです。野球どうこうではなく、自分の気持ちの中で苦しいシーズンだったので、シーズン中での決断に至りました。
◆打席に立った時に、なんだか後ろから邪気が……
─8月27日のDeNA戦(横浜スタジアム)での故障も考えるきっかけの一つになったのでしょうか?
石原 横浜スタジアムのときは、打席に立った時に、なんだか後ろから邪気が飛んでいたような気がしたんですよ。後から誰が解説をしていたかを聞いたら、新井さんだったんで……(爆笑)。
新井 (笑)あの試合、一塁ベースの前で転んだじゃん。その時に『あ~こいつ走り込み足りねーな』と思ったもん(笑)。解説しながら『走り込みが足らないですね~石原選手は』と、ここまで言いそうになったもん(笑)。
石原 (爆笑)その試合、たまたま録画してたんで後から見てみると、新井さんが冷静に『これは膝ではありません、ハムストリングですね』と解説してたんで、そこは別にいいじゃんと思って……(笑)。
新井 ただね、そこは、視聴者のみなさんがね、『なんなんだこれは』と思ったと思うんだよ。で、実況の人も『これはどこを痛めたんですかね?』と言ってたから、「こういう倒れ方だったら膝ではないですね。たぶんこれはハムストリングあたりだと思いますよ」と、めっちゃ冷静に言ってたよな? 俺(笑)。
石原 確かに冷静に言ってましたね!
新井 それでビンゴだったもんな。そういう部分もね、解説者として視聴者が何を求めているか、リアルな情報が欲しい訳よ(笑)。キミもこれから勉強しなさい(笑)
石原 (爆笑)結局、それが言いたいだけじゃないですか!(笑)
◆捕手というポジションは重労働で本当に大変
─ いろんな思いがあった一瞬だった訳ですね(笑)。しかし、あのケガをした瞬間というのは、実際にはどのような思いだったのですか?
石原 もちろん、すぐに復帰したいという気持ちもありましたし、自分で引退を決断したきっかけというものではなかったですからね。後々になって思い返してみれば、これがきっかけになったのかな? と思う部分はありましたけど、これが理由ではありませんでしたね。
新井 ケガの直後に連絡を取ったよな?
石原 そうですね、すぐ連絡していただきましたよね。
新井 やっぱり気になる存在だからね。正直なところ、開幕からもっと出ている姿を見たかったな~、というのが本音だったね。
─ その後、引退を決断され、新井さんにはどのように伝えたのですか?
石原 電話でお伝えさせていただいたんですが「自分で決めたことだから、お疲れさん」と。あとは「引退試合まで時間があるから、しっかりと過ごせよ」という事を言っていただきましたね。
新井 実際に引退の報告を聞いたときは、寂しいというよりも『よくやったな』と思いましたよね。捕手というポジションは重労働で本当に大変ですからね。そう考えるとよく19年間もやったなと。率直にそう思いましたよ。
石原 いろんな方々に引退の報告をするなかで、少しずつ実感はありましたけど、実際に引退試合を迎えるまでは正直その気持ちがまだ分からなくて、引退試合を迎えて『ああ、引退なんだ』とそこで一番実感しましたね。
(vol.2に続く)