右膝の手術から復活を期した昨季は112試合に出場。田中広輔は持ち味の高い出塁率と堅実な守備、そして選手会長としてもチームを牽引した。カープ野球復活のカギを握るチームリーダーの、今季にかける思いとは?

昨季は術後明けながら、春季キャンプの時点から軽快なフットワークを見せていた田中広輔選手。

─まずは昨シーズンのお話から伺います。田中選手にとっては、右膝手術からの完全復活を目指した一年となりました。改めて2020年のペナントレースを振り返っていただき、どんなシーズンだったと感じていますか?

 「今だからこそ本音を隠さず言うと、手術したあとだったので、走攻守の守りの部分、ショートの守備をしっかりこなすことができるかどうか心配ではありました。個人成績に関しては、僕自身はもちろん、ファンの方も不満を持たれる部分はあると思いますが、ショートとして、一年間プレーできたことは手応えを感じた部分です。個人的にはそれが一番大きかったですね」

─昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、開幕が遅れ、当分は無観客での試合が続きました。シーズン途中から有観客試合となりましたが、鳴り物を使っての応援は禁止でした。例年とは違った雰囲気での試合が続きましたが、グラウンドでプレーしている選手の心境はどうだったのでしょうか?

 「こういう状況になって、改めて、ファンのみなさんの存在、声援にすごく力を与えてもらっていたなと思いましたし、応援してもらえるということはすごく幸せなことだと感じました。例年と違う雰囲気に関しては、最初のうちはすごく大変でしたけど、そういうことを経験することができたことは、新鮮に感じる部分もあったのでプラスに捉えたいと思います」

─6月19日に開幕し、例年より約1カ月遅くペナントレースが終了しました。開幕に向けて難しい調整を強いられ、オフも短かったと思いますがコンディションを整える面で苦労されたことはありますか?

 「それは特に感じませんでした。オフが例年より短いという感覚はありましたが、大きな影響はありません。世界中がコロナで大変なときに野球をやらせてもらえていることを考えると、僕たちプロ野球選手はとても恵まれています。そこに感謝して、野球と向き合っていきたいと思っています」

─昨年は選手会長として戦ったシーズンでもありました。プレーで貢献する以外に、チームをまとめるという大きな役割があったと思いますが、選手会長としての手応えはどう感じていますか?

 「手応えがあったかと言われると、どうでしょうね……正直、手応えは感じていないのですが、自分の思いを言葉にして発信する大切さを身をもって感じた一年になりました。意識して発信するようにしたことで、もっとうまくタイミングをとれたんじゃないか、もっと良い言葉を選べたんじゃないかと感じるようになりました。そういう意味では、個人的に勉強になったことが多い一年でしたね」

─選手会長としてチームを引っ張るうえで、田中選手の前に選手会長を務めた會澤翼選手が同じ一軍にいるという点は心強かったのではないでしょうか?

 「會澤さんには昨年はお世話になりっぱなしでした。相談させてもらったことも数多くあります。會澤さんからバトンを渡され、選手会長をやらせてもらって思うのは、チームを引っ張る立場になって、周りを見ることがどれだけ大事で、どれだけ大変なのかをようやく痛感しました。そのことを、若い頃は分かっていませんでしたし、きっと、先輩方に迷惑をかけていたんだろうなと、今になって気付かされました。ただ、そこに気付けたことが僕にとっては成長ですし、選手会長という立場に立たせてもらえなければ分からなかったことがたくさんありました。今年も経験させていただくことで、もっと人として成長できるんじゃないかと思っています」