「野球は投手」と言われるほど、試合展開の主導権を握っているのが先発投手だ。はたしてプロの世界で先発として生き残るためには何が必要となるのか。ここでは現役時代に213勝(歴代19位)をマークした北別府学氏が、かつて語った“先発投手論”を一部再録する。
(『広島アスリートマガジン』2011年8月号掲載)

精密機械と称された抜群の制球力で、沢村賞も二度受賞している北別府学氏。

◆もっと完投する投手がいても良い

 先発は登板した試合の責任を背負う覚悟が必要だが、柱と呼ばれる投手たちは目の前の試合だけではなく、他の投手が先発する次の対戦も頭に入れておかなければならない。例えば翌日も同じ相手との対戦であれば、セーフティーリードがあっても最後まで手を抜いてはならない。

『寝た子を起こすな』という言葉があるが、不振の選手でも最終打席でヒットが1本出ると、気分良く明日の試合に臨めるものだ。寝た子は寝たままにしておくことが、次戦の先発投手を助ける。

 オープン戦では新外国人の得意なコースを探るために内外角どちらかに徹底して攻めることはあるが、シーズン中ではいくら点差が開いていてもやってはいけない。一球の失投が相手を乗せることにつながり、自分を苦しめることにもなりかねない。

 分業制が確立されたことで完投数は減った。しかし登板間隔が中6日で週に一度しか投げないことを考えれば、もっと完投する投手がいても良い。中継ぎは毎試合のように登板し、出番が少なくてもブルペンで待機するだけで多少の疲労は蓄積されているものだ。

 3連戦の先発のうち一人は完投するくらいの気持ちでいないと、中継ぎが毎試合投げないといけなくなる。それでは勝負どころの夏場を乗り切ることは難しい。先発は週に一度の登板だが、中継ぎは一週間、毎日仕事をしているようなもの。先発は一人で戦っているとはいえ、中継ぎとは助け合いながらやっていかなくてはならない。

『先発の勝ち星=チームの勝利』と言えるほど、先発はチームの命運を握っている。野球人にとって憧れのポジションである先発は、それ相応の責任を背負っている。

 自分の調整の悪さが投球に出たときには中継ぎに迷惑がかかり、ひいては野手陣、チームに迷惑をかけることになる。10勝しても10敗していては意味がない。それくらい責任を持って仕事を全うしなくてはならない。それが先発という仕事なのである。