東京五輪で金メダルを目指す侍ジャパンのメンバーに、カープから12球団最多となる4選手が選出された。この連載では、侍ジャパンの4番として期待がかかる鈴木誠也が、過去に本誌の独占インタビューで語った思いを取り上げ、プロ入りからここまでの軌跡を振り返る。

 3回目となる今回は、プロ1年目のシーズンオフに行ったインタビューの後編。初めてのシーズンを過ごし感じた思いを、鈴木の言葉をもとに紹介する。
(広島アスリートマガジン2020特別増刊号「鈴木誠也 全インタビュー集」に掲載)

1年目の鈴木誠也選手。プロ野球の世界の壁の高さを感じ、悩みながらも着実に力をつけていった。

◆[プロ1年目の自分を振り返る]その先の未来へ(後編)

─「自分に負けたくない」というのは、鈴木選手にとってどういうことですか?

「昔から『自分は自分』って思っています。小学生、中学生のときからそうで、一人相撲みたいな感じで野球をやってきたところもあるんです。ライバルっていうライバルもいなかったし、自分との戦いで、自分に負けなければそれでいいやと思っていました。だから今まで負けてたのは『自分』でした。やるって言ってもやらなかったり、素振りをやる、走り込みをやるって言っても1日やったら次の日から全然続きませんでした」

─今の鈴木選手からはなかなか想像がつかないお話ですね。

「今は『あいつは口だけ』って思われるのも嫌だし、自分にさえ勝てれば絶対に成功するって思っています。自分にさえ負けなければ何とかなるって思っています。二軍のときも打てないときは、体がきつくても休まなかった。きついから練習をしないっていうのは違うと思うし、きついながらも練習していたら結果が出てきていたので、そういう面では自信になっている部分もあるんです」

─それでも知らず知らず疲労は溜まってくると思いますが、それでもなぜ休むことなく、続けていたのでしょうか?

「きついからこそやった方が体は強くなるし、気持ちの面でも自分に『勝ってる』と思えます。少しでも野球に携わる時間を長くすれば、人よりも野球のことを考えていられるし、プロの世界はやったもん勝ちだって思っています。その日の試合で打てたら何もしない、打てなかったら練習するっていう選手にはなりたくないんです。打ててもやる、打てなくてもやるっていう選手が良い選手だと思っています。今やっている自分の練習や考えが今の時点では合っているのか分からないんですけど、これからずっと続けていけばそれが自信に変わっていくと思います」

─結果に関わらず、とにかく努力を重ねていくということですね。

「たとえば大谷(翔平)くんや藤浪(晋太郎)くんは、高校生のときから注目されていた選手だったし、活躍して当たり前というか。ただ、それで結果を残しているのはすごいと思うんです。あの二人は天才バッターとか、天才ピッチャーなのかなって思います。でも自分はそうじゃないし、天才じゃないし、努力してやらないといけない。天才だったら3月の時点で壁に当たらず、バンバン打っていると思うんです。でも、それが無理だった時点で天才じゃないと思うし、練習しないとダメなんだって思って。そうしたら良い結果が出てきたんで、改めてそういう努力の選手なんだなって思いましたね。自分に負けていたらダメなんだなと」

─練習へと熱心に取り組むようになったきっかけなどはあるのでしょうか?

「高校のときに『野球の神様が見てるぞ』ってしつこく言われたことがあったんですけど、全然言われたようにやらなかったんです(笑)。『神様なんて、嘘つけよ』って。でもプロに入って、練習をやらないときは結果が出なくなったし、頑張っていたら一軍に上がれてヒットも打つことができました。『もしかしたら野球の神様っているのかも……』という気持ちでやっていたら、夏場体がきつくて練習せずに布団に入って寝ようとしても、なんだか隙間とかから誰かに見られているような気がして。なんか怖くなって、練習やらないとダメだって思って、そのまま起きて裸足でベランダに行ってバットを振って寝たことがあるんですよ」

◆2013年から2020年に行った鈴木誠也のインタビューは、広島アスリートマガジン2020特別増刊号「鈴木誠也 全インタビュー集」で公開中。