目標の具体化こそが成長につながる

 僕のジムでは、選手がトレーニングする目的、こういう選手になりたいという目標を、最初に言葉にして書き出してもらいます。速い球を投げたいではなく、150kmの球を投げたい。ヒットを打ちたいではなく、一年を通して100本のヒットを打ちたいなど、抽象的な目標ではなく、より具体的に未来の自分を描いてもらいます。

 そして、その目標(数値)を達成できるように、ラプソードなどの最新機材を使って、科学的視点で選手の体の状態や動きを分析し、オリジナルの練習メニューを考えていきます。

 たとえば、カープのエース・大瀬良大地投手が得意としているカットボールを投げたいと思ったとき、映像だけでは、ざっくりとした球の軌道はイメージできても、球の変化量、回転率や回転軸など、その球が秘めている正確なデータまでは分かりません。

 

 ただ、最新機材を使い、担当する選手が投げるカットボールと、大瀬投手のカットボールのデータ(数値)を示すことで、その違いを具体的に分析できます。大瀬良投手のカットボールを頭の中だけでイメージして投げているうちは上達は遅いと言えるでしょう。

 先ほど紹介したラプソードは、投球・打撃データをリアルタイムで分析する機械です。「Mac’s Trainer Room」では、日本のプロ球団よりも早くこの機械を導入し、実績を残し、たくさんのノウハウを蓄積しています。

実際にトレーニングジムで使用されているラプソード

 ラプソードを使う一番のメリットは、投げた球や打った球を「数値」で表せること。あの選手が投げる球は強い、変化球のキレがあるといった感覚的な表現ではなく、球速、回転率、回転軸、回転効率、変化量などを分析し、すべて数値として出してくれます。

 もちろん野球をするうえで選手の感覚も大事です。ただ感覚だけではダメ。感覚に数字を融合させないと、それはいつまでたってもカンのままです。そして、投手であれば150kmの球を投げたいなど、数値を持った目標を描くことで、ラプソードを使えば、それを達成するための具体的な練習方法を考えることができます。

 投げ込みや振り込みを否定しているわけではありません。猛練習をこなすことで、プロ野球選手になった人も数多くいます。一方で、僕のように、投げ込みや振り込みによる練習が原因で、ケガをして苦しんでいる選手がいるのもたしかです。

 そういった選手をサポートするためにも、別のアプローチによるトレーニングがあってもいいのではないかと考え、科学的視点を取り入れたトレーニングを実践したり、SNSやYouTubeなどで情報発信を続けています。

 以上が簡単ですが、野球のトレーニングに対する僕の考えです。これから連載するコラムは、こういった想いのもと執筆していきたいと考えています。

 さて、ガラッと話は変わりますが、今年、オリックス・バファローズに、僕がトレーニングを担当させてもらっていた谷岡楓太投手(武田高)が育成ドラフト2位で入団しました。実は谷岡投手の高校1年の頃の球速は125km。それが3年間で150kmの速球を投げる投手に成長し、ドラフトで指名されるまでになりました。

 どうやって球速がアップしたのか。それは、独自のトレーニングが関係しているのですが、その秘密は次回のコラムで紹介します。それでは、また近いうちにお会いしましょう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

高島誠(たかしま・まこと)
広島県東広島市の西条町にある、野球専門のトレーニングジム「Mac's Trainer Room」の代表。オリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)、MLBワシントン・ナショナルズのトレーナー経験があり、現在も数多くのプロ野球選手とトレーナー契約を結んでいる。趣味はパルクールとサウナで、サウナ・スパスペシャリストの資格も持つ。
Twitter YouTube