《アスガク from Hiroshima》で教育・研修事業を担当する門田卓史です。
企業や大学、スポーツチームに教育・研修を提供している私の立場から、「スポーツの学び」について解説していきます。

前回のコラムにおいて、スポーツには感情、思考、身体が直接的につながる体験が圧倒的な量で存在し、それは「人として成長につながる機会である」とお伝えしました。
そう考える背景を掘り下げます。

アスリートは、昨日より今日、今日より明日、と進化、変化していくことで「できなかったことができるようになる」ことを日々実践しています。
当たり前のようにできることも大切ではありますが、それだけでは対戦相手もライバルも対策を講じ、いずれ通用しなくなってしまいます。
そうならないよう、新たなことに取り組む、創意工夫する、限界の突破を試みる、といった「これまで」から「一歩踏み出す」という『チャレンジ』は欠かせないことです。

【コンフォートゾーンから踏み出す】

チャレンジには見通しが立たない、失敗する可能性といったリスクが介在していますが、このリスクが成長ととても深い関係があります。

下図を参考に、自身を中心にして3つの領域があるとイメージしてください。

 

自分に最も近い領域が「コンフォートゾーン」です。
言葉の通り快適で居心地がよく、ストレスもありません。
いつもと変わらない練習メニューといった、いつも通りの手順で次に何をするか、どうすればいいか、ということが分かっている状態です。
ただ、 快適だからと留まり続けてしまうと、環境の変化に対応、順応することができず、長期的にはリスクが高くなります。

最も外側にあるのが「パニックゾーン」です。
文字通り、混乱、思考停止、その環境下から早く脱する必要がある領域です。
スポーツに例えると、まだ初心者なのにいきなりプロレベルの練習や実践に挑むようなもので、無謀と言えます。
身体的にも精神的にも過度のストレスがかかり、その負担により被害を被ってしまう可能性が高く、成長する機会を得ることができません。

最も成長につながる機会を得ることができる領域が「ストレッチゾーン」です。
快適でも無ければ、混乱でもない、ちょっと背伸びをするような領域です。
未知なることに対し、失敗といったリスクからの不安があり、同時にこれまでの経験などから成功への期待感もあります。
知識や能力を最大限に発揮して適応を試みる、創意工夫や新しい方法を試みる、といった能力を伸ばす機会が多くあります。
つまり「不安を感じている瞬間は、成長している瞬間でもある」ということができます。

【チャレンジがチャレンジを生み、人を大きくする】

ストレッチゾーンへ踏み出す瞬間、不安と期待からワクワクします。
このワクワクこそ、チャレンジへの意欲となり、 創造性や探求心にもつながります。
また、チャレンジによって得た経験はチャレンジ自体へのハードルを下げ、更なるチャレンジへの意欲を生み出します。

そして、コンフォートゾーンが広がります。
チャレンジによって新たな知識や経験を得られるだけではなく、自分自身の能力や考え方といった自己への新たな発見を得ることができ、コンフォートゾーンは広がっていきます。
それは、新たな出会いや異なる価値観に対して、自分なりに受け止め、向き合うことができる「人としての大きさ」にもつながっていきます。

「苦しいけれど、同時にドキドキ、ワクワクしながら挑戦することが、勝負の世界の醍醐味だ」とはイチローの言葉です。
スポーツには成長につながる体験が圧倒的に存在する。
なぜなら、スポーツにはチャレンジが日常的に存在しているからです。

 

【プロフィール】
門田卓史(もんでん たかし)
(株)edu-activators(エデュアクティベーターズ) 代表取締役
1975年広島生まれ、2016年より現職。アドベンチャー教育、体験教育を背景に、企業や大学、学校教育、スポーツなど幅広い分野に対し、チームビルディングや組織開発、人材育成、ファシリテーション研修などを提供。理論や経験に基づく知識を提供するだけでなく、体験・体感型のワークを通し、受講者自身の気づきから学びを促す納得度の高い参加型の研修を展開。スポーツ分野においては、日本サッカー協会A級ライセンス講習会、日本バスケットボール協会S級ライセンス講習会において講師を務めるほか、サンフレッチェ広島スクールが『人としての成長』を目的に開催されるキャンプの企画運営を担うなど、成長をテーマとした研修を提供している。

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