「アスガク from Hiroshima」で教育・研修事業を担当する門田卓史です。
前回に引き続き、スポーツには感情、思考、身体が直接的につながる体験が圧倒的な量で存在し、それは「人として成長につながる機会である」と考える背景を引き続き掘り下げます。

前回、人が成長する上でチャレンジが欠かせないこと、そして、そのチャレンジがスポーツには日常的に存在するということをお伝えしました。
今回はもう一つの大切なこと、「過程(プロセス)」について説明します。

【結果も大事、でも結果だけだと見誤ってしまうかも】

スポーツは結果がはっきりします。
優勝や全国大会出場、スコア、タイムなど、はっきりと明確なので、具体的な目標として目指しやすく、そこにこだわります。
また、観客やファンにとっても分かり易いものですので、その結果に一喜一憂します。

結果は大切なものです。
しかし、結果だけに焦点を当てるとそこにはリスクが潜んでいます。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」
これは、松浦静山の剣術書「剣談」の一節で、南海・ヤクルト・阪神・楽天などプロ野球チームの監督として長年活躍した故・野村克也氏がよく用いた言葉として有名です。
時に実力が伴っていないにもかかわらず、運や勢いといった説明しかできない「たまたま勝利する」ことがありますが、こうした勝利は再現性がなく、継続は至難の業となってしまいます。

また、チャレンジを避けるようになってしまう可能性があります。
心理学者のトッド・ロバートとロバート・スタンバーグの研究によると「成功しよう、上手くやろうとしすぎると創造性が低下する」とされています。
結果だけを求めすぎると、上手くやること=失敗しない方法を選択しがちになり、成長に欠かせないチャレンジを避けてしまい、コンフォートゾーンに留まったままになる可能性があります。

さらに、結果を出すことだけを考え「成功すれば何をしてもいい」という思考になってしまうと、モラルに反するようなことを正当化してしまう危険性があります。
ルールに基づき、フェアプレー精神で正々堂々と立ち向かうからこそ、スポーツは感動し、人としての倫理観を育てることができるのです。

【人が成長するには過程が重要】

スポーツにおいて勝敗という結果も大切ですが、結果に至るまでの「過程」も重要です。
そして、過程には人としての成長につながる機会が結果よりも多く存在しています。

その理由の一つに、過程はコントロールできることにあります。
結果は対戦相手や環境など様々な要因が複雑に関係するため、コントロールするのは至難の業です。
一方で、過程は自分次第でコントロールすることができます。
現状を受け止め、知識や経験を用いて思考し、行動することを繰り返すことによって、一歩ずつ求める結果に近づけていくことができます。
自らの意思と思考、そして行動によって過程の質を上げていくことは、人として成長する上でも欠かせないことです。

さらに過程はふりかえることを通して、積み上げていくことができます。
『失敗は成功の基』という言葉がありますが、ただ闇雲に失敗を繰り返しても成功に辿り着くことはなかなか難しいです。
チャレンジして失敗した際に、その結果に至る過程について分析や考察をすること、つまりふりかえることによって、次にどうするか、どうしたらいいか、といった気づきや学びを得ることができます。
これは成功した場合も同様で、過程をふりかえることにより、再現性を高めることにつなぐことができます。

アメリカのバスケットボールコーチのボビー・ナイト曰く、「『勝つ意欲』はたいして重要ではない。そんなものは、誰でも持ちあわせている。重要なのは、勝つために準備する意欲である」と、説いています。

結果も大切ですが、目指すことに向けた意欲をもって取り組む過程が重要なのです。
過程の中でスキルが磨かれると同時に、人としても成長していくことができるのです。

【プロフィール】
門田卓史(もんでん たかし)
(株)edu-activators(エデュアクティベーターズ) 代表取締役
1975年広島生まれ、2016年より現職。アドベンチャー教育、体験教育を背景に、企業や大学、学校教育、スポーツなど幅広い分野に対し、チームビルディングや組織開発、人材育成、ファシリテーション研修などを提供。理論や経験に基づく知識を提供するだけでなく、体験・体感型のワークを通し、受講者自身の気づきから学びを促す納得度の高い参加型の研修を展開。スポーツ分野においては、日本サッカー協会A級ライセンス講習会、日本バスケットボール協会S級ライセンス講習会において講師を務めるほか、サンフレッチェ広島スクールが『人としての成長』を目的に開催されるキャンプの企画運営を担うなど、成長をテーマとした研修を提供している。

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