追伸:カープファンの少年が大学の教壇に立つまで

 小学校1年生の時、広島の実家で観た江夏の21球の緊迫感は、いまだに忘れられない。インローへのスライダーは切れ味抜群だった。窮地を乗り越えたカープナインの“赤”はウルトラマンよりも強く、鮮やかで誇らしかった。

 今、都内の最寄り駅で見かけるカープ帽の少年は“赤”の時代の再来を期待させてくれる。

 私は大学で経営学とスポーツの組織・戦略論を担当し、高校野球における『弱者の逆転戦略」を研究テーマにしている。『もしドラ」の女子マネジャー同様、武器は『マネジメント」だ。理論と実践のあいだを埋めるため、中小企業診断士(経営コンサルタントの国家資格)も取得した。

 現代の野球界は『セイバーメトリクス」や『トラッキングシステム」などの科学的アプローチによってデータ化が進み、『AI」の活用もすぐそこに控えている。肌感覚の持論だけで戦う時代は、とっくに過ぎ去ったのだ。ただし、そこに『熱」が必要であることは、今も昔も変わらない。

カープの野球は「熱(あつ)」うて、「温(ぬ)」きい。

カープ野球を生み出す熱源を、今後の連載で解き明かしていきたい。

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高柿 健(たかがき けん)
広島県出身の高校野球研究者。城西大経営学部准教授(経営学博士)。星槎大教員免許科目「野球」講師。東京大医学部「鉄門」野球部戦略アドバイザー。中小企業診断士、キャリアコンサルタント。広島商高在籍時に甲子園優勝を経験(1988年)、3年時は主将。高校野球の指導者を20年務めた。広島県立総合技術高コーチでセンバツ大会出場(2011年)。三村敏之監督と「コーチ学」について研究した。広島商と広陵の100年にわたるライバル関係を比較論述した黒澤賞論文(日本経営管理協会)で「協会賞」を受賞(2013年)。雑誌「ベースボールクリニック」ベースボールマガジン社で『勝者のインテリジェンス-ジャイアントキリングを可能にする野球の論理学―』を連載中。