広島が歓喜に湧いた、2016年の25年ぶりのリーグ優勝。そこからセ・リーグ3連覇という輝かしい実績を残した広島東洋カープ。しかし数年前までは、Bクラスに低迷するシーズンが続き、暗黒時代と揶揄される時期もあった。カープはどのように常勝チームを構築し、人気球団へとなっていったのか。この連載では、組織論・戦略論などの視点から、近年のカープの強さ・魅力の秘訣を紐解いていく。案内人は、高校野球の指導者を20年務め、現在は城西大経営学部准教授として教鞭をとるなど多彩な経歴を持つ高柿健。それでは、カープ野球の真髄を解き明かす旅をご一緒に。

 

どのようにしてカープは3 連覇するだけの強いチームになったのか?

「私、會澤翼はFA権を行使せず、広島に残留することに決めました」

 2019年秋、多くのカープファンがこの言葉に安堵した。この時期、主力選手のFA権行使を危惧するのはカープファンの年中行事だ。

 1993年に『FA制度」が導入されると、カープからは主力選手が次々に流出した。さらに『逆指名制度」(2001年・自由獲得枠制度、2005年・希望入団枠制度に変更)によって、有望選手の獲得が困難になった。このインフロー(選手流入)とアウトフロー(選手流出)の不均衡によって、カープは次第に他チームに対抗する力を蓄積(ストック)できなくなってしまった。

 しかし、2016年、そのカープが25年ぶりにセ・リーグ優勝を果たした。さらにその後2018年までセ・リーグを3連覇したのだ。

 なぜ勝てるようになったのか……。

 若手選手が育ったから? 黒田博樹・新井貴浩が帰ってきたから? マツダスタジアムが出来たから? カープ女子が増えたから? グッズが売れたから?

 もちろん、どの要因も正解だ。勝因はこれらの複合的成果であることは間違いない。ではなぜ、こうした要因が生まれたのだろう。そこには不条理な時代から、カープが培ってきたチーム戦略と組織の仕掛けがある。