後半戦に入ってもカープの勢いは衰えず、阪神、中日との三つ巴の戦いは熾烈を極めた。それでも古葉監督が信念とする『耐えて勝つ』野球は選手間にも浸透し、万年Bクラスだったのが嘘のような熱い戦いを繰り広げていった。

 ペナントレースは最終的にカープと中日の一騎打ちの様相を呈し、勝負は終盤戦に持ち越された。そんな中でカープは9月を13勝3敗4分という驚異的なペースで乗り切り、優勝に向けての土台を強固なものとした。そして迎えた10月15日。古葉監督の中には「後楽園で決める」という強い信念しかなかった。

 「ここで負けたら勝負は最終戦の中日との直接対決に持ち越しとなってしまう。地元ファンの前で選手が緊張して力を出し切れない可能性も考えると、どうしてもここで決めてしまいたかった」

写真は優勝決定直後のシーン。マウンド上では歓喜の輪が広がり、グラウンドにはファンがなだれ込む熱狂ぶりだった。

 リーグのお荷物とまで揶揄された球団が、創立26年目にしてつかんだ栄光。後楽園球場だけではなく、広島の街が過去に例がないほどの歓喜に包まれたのは言うまでもない。優勝の5日後に広島市内で行われたパレードには、約30万人のファンが詰めかけた。古葉監督が回顧する。

 「本当に感激しました。中には、おじいちゃんの遺影を掲げるファンの方もいました。あのシーンは忘れられません」

 万年Bクラスの弱小球団が見せた、奇跡とも言える初優勝。ファンがなだれ込む中で古葉監督が宙に舞った歓喜のシーンは、今も色あせることなく、カープファンの心に刻み込まれている。