日本の守護神に成長したドラ1右腕・栗林良吏だが、本格的に投手を始めたのは実は大学入学以降。プロで数々の記録を打ち立てる右腕がどんな物語を紡ぎ、今の場所に立っているのか。名城大、トヨタ自動車、そして広島東洋カープ。そして栗林をよく知るキーマンに取材を重ね、広島の守護神・栗林の真実に迫っていく。

 今回取り上げるのは、トヨタ自動車に在籍する逢澤崚介。もう一度プロを目指そうと栗林良吏の背中を押したのが同期入社の逢澤だ。「2年後に周囲を見返そう」。そのやりとり以降、栗林の姿勢に変化が生まれていった。
※取材は9月上旬。

プロ1年目から大車輪の活躍を続ける栗林良吏投手。入団前の本誌インタビューでは「同期に逢澤がいたおかげで、チャンスがあるならプロに行きたいという気持ちに変わりました」と答えていた。

◆栗林の背中を押した同期からのメッセージ

 クリ(栗林)と初めて会ったのは大学日本代表の合宿です。トヨタ自動車で栗林と一緒に野球をして感じたのは、普段は口数が少なくておとなしいくせに、野球のことになるとめちゃくちゃ負けず嫌い。そしてユニホームを着ると顔つきがガラッと変わります。良い意味でギャップがすごいのがクリの印象です。

 そんなクリですが、社会人になりたての頃は、プロ野球選手を目指してはいませんでした。ある時、同期のみんなで食事に行った際、監督の「プロに行きたいやつは手を挙げてみろ」の問いかけに、クリが唯一1人だけ手を挙げなかったんです。

 理由を聞くと「昨年ドラフトで指名されず、その結果、トヨタ自動車という地元の企業に入社できたので、これからは会社に貢献していきたい」と返ってきました。

 僕は大学時代からクリの投球を見ていて、投手としてのすごさを知っていましたし、僕自身もプロを目指しクリと同じように昨年ドラフトで指名されなかったので、「指名漏れした仲だし、2年後に周囲を見返せるように頑張ろう」と声をかけたのを覚えています。

 その言葉がきっかけかどうかは分かりませんが、それ以降、クリの姿勢に変化がありました。特に変化を感じたのは練習に対する姿勢、そして投手としての一球への気持ちの込め方です。その姿をみんなが見ていたので、『クリが投げたら大丈夫』と、社会人1年目からチーム全員に信頼されていましたね。

 マウンドに上がる際、白線の前で立ち止まりお辞儀をしていますが、社会人でも同じことをしていました。「今日も1日お願いします」と心の中で呟いているそうです。あれだけの実力を持ちながら決して奢らない。そして常に謙虚。そういう姿勢を本当に尊敬しています。

 クリはストレートもすごいですが、僕の中ではカーブが印象深いです。明治大の後輩の森下暢仁も緩いカーブを投げていましたがクリのカーブは森下とは違う。ブレーキの効いた分かっていても打てない、バットに当たらないカーブを投げていました。  

 トヨタ自動車では先発をしていましたが、僕自身は抑えとしての可能性を感じていました。先発の時、ランナーがいないとたまに甘く入って痛打を浴びますが、ピンチになった時に投げる球がとにかくエグい。抑えに向いていると確信したのは1年目に参加したウィンターリーグです。その時、クリは抑えを任されていて、大会には若いプロ選手も参加していたのですが、1イニング限定だと全然打たれない。そのクリの姿は今でも記憶に残っています。

 カープ入団後もクリとはよく連絡をとっています。春季キャンプ中は「通用しないのかな」と自信なさげなことを言っていましたが、シーズンが始まる前には「今年は抑えをやらせてもらうから」といつものクリに戻っていました。僕がカープファンなのをクリは知っているので、「カープを勝たせられるように頑張るわ」と言って開幕を迎えましたが、ここまで活躍するとは想像していませんでした。

 トヨタ自動車の頃と同じように、チームメートからもファンの方からも『栗林が投げたら大丈夫』と思われる投手になってもらいたいですし、日本球界を代表する投手になってもらいたいですね。その姿にトヨタ自動車の選手も刺激を受けますし、何よりも僕自身が影響を受けています。いつの日か、もう一度、クリの後ろで外野の守備につけたら最高ですね。

 

◆プロフィール
逢澤崚介(あいざわ りょうすけ)
トヨタ自動車硬式野球部・外野手
1996年9月26日生・岡山県出身。関西高では甲子園に出場。進学した明治大では1年生の頃から試合に出場してきた。カープの森下は1学年下の後輩にあたる。トヨタ自動車では1年目から左の巧打者として活躍。肩も強く外野守備でも存在感を発揮する。プロからの注目度も高い、栗林と同学年の選手。