開幕から守護神として活躍を続ける栗林良吏投手。

 10月に入り、7試合に登板し7セーブをあげている栗林良吏。10月17日の阪神戦でも1回を無失点に抑え、35セーブ目をあげた。

 いまやリーグを代表する守護神に成長したドラ1右腕・栗林だが、本格的に投手を始めたのは実は大学入学以降。プロで数々の記録を打ち立てる右腕がどんな物語を紡ぎ、今の場所に立っているのか。名城大、トヨタ自動車、そして広島東洋カープ。そして栗林をよく知るキーマンに取材を重ね、広島の守護神・栗林の真実に迫っていく。

 今回取り上げるのは、名城大学硬式野球部の山内壮馬コーチ。栗林良吏が「山内さんから投手としての全てを教わった」と話すほど、名城大での山内との出会いが、栗林の野球人生を大きく変えていった。山内は栗林のどこにプロとしての才能を見たのか。その真相に迫る。
※取材は9月上旬。

名城大では、32勝、防御率2.07の成績を残し、ベストナインにも4度選ばれた栗林。大学2年と3年の時に、明治神宮野球大会に2年連続で出場。4年秋にはチームを12年ぶりに愛知大学野球1部リーグ優勝へと導いた。

◆心配性なのでしっかり準備する、その性格がクローザーに向いていた

 私が名城大のコーチに就任したのは栗林が大学2年のとき。初めて見た栗林は、プロを目指している雰囲気はありませんでしたが、投手としてのポテンシャルの高さを感じました。

 なによりもストレートが魅力的でした。速くて強い。栗林がプロを目指せると思った一番の理由は、このストレートです。

 それを本人に伝えたうえで、現在の状態、そしてプロを目指すうえで何が必要かを整理して、栗林の成長段階に合わせて、試合に向けての準備方法、投手としての心構えについて時間をかけて話してきました。

 栗林は、「山内さんから投手としての全てを教わった」と言ってくれたみたいですが、私がいくら教えても、受け取る選手が吸収してくれないと成長は望めません。その点、栗林は、とにかく謙虚で向上心が高かった。野球が大好きで、こちらのアドバイスを素直に全部吸収しようとしてくれました。

 なによりも驚いたのは質問の頻度。「こういう時はどうすればいいですか?」と気になったことはすぐに聞いてきました。また、普通の大学生なら調子がおかしい時は寝て起きたら元に戻っているだろうと考えるものですが、栗林は自分が納得していない時は、シャドーピッチングに取り組むなど、明日に向けてしっかり準備するという長所がありました。そういうひたむきに努力を続ける姿勢はチームメートからも信頼されていたと思いますね。

 どこからがルーティンなのかは本人にしか分かりませんが、大学から栗林のルーティンの数は多かったですね。プロ野球選手になってもやっていますが、マウンドに行く時、帽子をとっての一礼は大学からやっていました。

 ユニークなもので覚えているのは銭湯習慣。土日に試合がある時は、木曜日に銭湯に行っていたようです(笑)。真面目な栗林のことですから、部屋であれをやる、これをやるというルーティンもあったのではないかと思いますね。いろんな意見があっていいと思いますが、個人的にはルーティンを削る必要はないと思っています。それで調子を保てているならなおさらです。ルーティンは、毎日それを行って試合に臨むという準備の面で、自分のプレーの安心材料になるものです。なので、支障が出ない限りは続けていってもいいのではないかと思いますね。

 大学では先発で投げていましたが、試合で投げる球種はストレートとスライダーがほとんどだったので、大卒でプロに入るなら、短いイニングを投げる中継ぎとしてだろうと思っていました。そこでプロでも長いイニングを投げられるようにと緩いカーブの習得にも取り組みました。

 大学時代に完成された投手だったわけではなく、トヨタ自動車に行ったことでさらに成長し、カープに入団してもう一段階良くなっています。年々成長しているように感じるので、まだまだ伸びしろはあると思いますね。

 社会人でも先発で投げていましたし、ドラフト1位で指名されましたから、プロでも先発投手だろうと思っていたら、いきなりのクローザー指名。普段から軽はずみな行動をとる選手でもないですし、心配性なところがあるのでしっかり準備する。そういうところがクローザーに向いていたんだろうなとカープでの活躍を見て感じましたね。

 シーズン後半になってもクローザーを任されているのは、首脳陣とチームメートの信頼を勝ち得た結果だと思います。その信頼を裏切ることなく、努力を続けていってほしいですし、『栗林で負けたら仕方ない』とみなさんに思ってもらえるような投手に育っていってほしいですね。

 栗林の登板はテレビで見ますし、見れない時は速報で必ずチェックしています。連絡も節目節目でしています。ここまでの活躍は、本人には申し訳ないですが予想以上です。

 心配性で慎重なところがあったので、1年目は少し苦労するかもしれないというのが私の予想だったんです。それは良い意味でバッサリと裏切られましたね(笑)。これまでの登板を振り返ると、私の中で怪しい試合はいくつかありました。ただ、その次の試合できっちり修正してくるのが栗林のすごいところ。その修正能力の高さが、これだけの結果を残している一番の理由ではないでしょうか。日本代表の抑えにも抜擢されましたし、出来過ぎなくらい順調そのもの。それだけに燃え尽き症候群にならないか心配しています(笑)。

 

◆プロフィール
山内壮馬(やまうち そうま)
名城大学硬式野球部・コーチ
1985年7月1日生・愛知県出身。2007年大学・社会人ドラフト1巡目で中日に入団。9年間の現役生活で17勝をあげた。また、プロ初登板がカープ戦。プロ初の2桁勝利をあげた2012年は、節目の10勝目をマツダスタジアムで挙げるなど、カープとの縁も深い。2017年から名城大学硬式野球部のコーチを務めている。