スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

 2020年12月に他界したフィル・ニークロと言えば、メジャーリーグにおけるナックルボールの最高の使い手である。通算318勝をあげている。弟のジョーも同様にナックルの使い手で、こちらは通算221勝をあげている。

 1979年11月の日米野球で、山本浩二がフィルのナックルを西宮球場のレフトスタンドに叩き込んだのにはびっくりした。メジャーの一流どころがきりきり舞いしていた魔球を一振りで仕留めたのだ。

 後年、このホームランについて聞くと、山本は「あの1球だけが、たまたま高めに浮いてきたんや。ベルト付近のボールやったね。こっちにも“日本人の意地を見せたる!”という思いがあったんよ」と語った。

 さて、今ドラフトでカープはナックルボーラーを指名した。育成4位の坂田怜(正智深谷高-中部学院大)だ。

 担当したスカウトの松本有史によると、元々は本格派の右腕だったそうだが、大学2年の春に心臓を手術。それが原因で練習量が落ち、原克隆監督(当時)から、肩や体にかかる負担が少ない、という理由でナックルの習得を薦められたのだという。

 松本は言う。「YouTubeでメジャー通算200勝をあげているナックルボーラー、ティム・ウェイクフィールドの投げ方を見て、それを参考にしたそうです。現在は母校の名城大でコーチをしている元中日の山内壮馬が坂田のナックルを見るなり、“あのボールは、なんだ!?”と言って驚いたそうです。プロの1軍で投げていた者が驚くくらいだから、かなりのレベルに仕上がっていると思いますよ」

 球種はナックルの他にカーブやスライダーもあるが、目下、投げるボールの8割はナックルだという。長身(188センチ)のナックルボーラーに秘密兵器としての期待がかかる。

(広島アスリートアプリにて2021年10月18日掲載)

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二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。