スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

 プロ野球はポストシーズンゲームの真っ只中だが、話題の中心にいるのは北海道日本ハムの監督に就任したばかりの新庄剛志である。

 優勝したわけでもないのにローカル球団の監督の一挙一動が、これだけ全国放送で取り上げられたケースは、ちょっと記憶にない。ほとんどメディアジャックのようなありさまである。

 物議を醸したのは就任会見での「優勝なんか一切目指しません」という発言だ。これも前代未聞である。どんなに弱かろうが、「優勝を目指して頑張ります」というのが就任会見での相場的発言で、なかば儀礼化していた。

 新庄は、こうした形骸化したセレモニーが嫌だったのだろう。しかし、単なる“逆張り”でないことは、以下の説明からも明らかだ。

「高い目標を持ち過ぎると、選手ってうまくいかないもの。一日一日、地味な練習を積み重ね、シーズンを迎えて、それで何気ない試合、何気ない一日を過ごして勝ちました。勝った、勝った、勝った、勝った……。それで9月あたりに優勝争いをしてたら“さぁ、優勝を目指そう!”って、そこからの気合いの入り方は違ってくる。(だから)優勝なんか目指しません!」

 実は同じような話を3年前に他界した衣笠祥雄さんから聞いたことがある。1975年の初優勝がまさにそれで、9月になっても優勝争いをしていることが始めのうちは信じられず、「勝った、勝った」という日々を送っているうちに、チーム全体が「本当に優勝できるのでは……」という空気に変わってきたのだという。

 3年連続Bクラスのカープも、今こそ初心に戻るべきだろう。来季はまずもって「9月あたりに優勝争い」を目標にして欲しい。その方がV奪還の現実味も増すというものだ。

(広島アスリートアプリにて2021年11月15日掲載)

毎週月曜日に広島アスリートアプリにてコラム「追球カープ」を連載中。
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二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。