ポスティングシステムによってメジャー移籍を目指すことを表明した鈴木誠也。報道では巨額契約も予想されるなど、日本人野手としては近年にない評価を受けているが、日本で残してきたある“数字”と、プレースタイルを見れば、その評価が必然なのが分かる。

今シーズン終了後、メジャー移籍を目指すことを表明した鈴木誠也選手。

◆「5ツールプレイヤー」の要素を兼ね備えた鈴木誠也

チームを支え続けた4番が、海を渡る――。

 11月16日、カープは鈴木誠也のポスティングシステム申請を承認したことを発表した。MLB30球団による入札、その後の契約交渉がまとまれば、晴れて“メジャーリーガー・鈴木誠也”が誕生することになる。

 かねてから「メジャー志向」を公言していた鈴木誠也にとっては、6年連続打率3割&25本塁打を記録し、年齢的にも27歳と“ベスト”なタイミングなのは間違いない。

 すでに日米のメディアは“鈴木誠也争奪戦”を報じており、一部ではその契約が4年総額4730万ドル(53億9000万円)になるとも言われている。

 日本人野手の評価が“下がっている”と言われるメジャー市場において、この契約は破格と言っていい。事実、直近でメジャー移籍を果たしている日本人野手の契約を見ても、筒香嘉智(パイレーツからFA)は2年総額1200万ドル、秋山翔吾(レッズ)は3年総額2100万ドルと、鈴木誠也に予想される契約総額とは大きな差がある。

 筒香、秋山も日本球界を代表するスター選手であることに変わりはないのに、なぜメジャー球団はここまで鈴木誠也を高く評価するのか。

 要因は、いくつかある。そのひとつが、主にメジャーで打者を評価する際に用いられる指標である“OPS”だ。出塁率+長打率で求められ、打率や本塁打といった指標よりも得点との相関関係が高い。

 以下は鈴木誠也、筒香、秋山のメジャー移籍前3年間と、NPB通算のOPSだ。

【鈴木誠也】
2019年    1.018
2020年    .953
2021年    1.072
通算    .985

【筒香嘉智】
2017年    .909
2018年    .989
2019年    .899
通算    .910

【秋山翔吾】
2017年    .933
2018年    .937
2019年    .864
通算    .829

 鈴木誠也のOPSが突出しているのが分かる。ちなみに通算OPS.985という数字は松井秀喜のNPB時代のOPS.996に肉薄するレベルであり、イチローの同.943も大きく上回る。

 OPSという指標は単に「長打力がある」だけでも「打率、出塁率が高い」だけでも数字が上がらず、「長打力」と「出塁力」を高いレベルで兼ね備えていなければならない。

 その点、鈴木誠也はコンスタントに打率3割、出塁率4割をマークし、なおかつ25本以上を放つ長打力を併せ持つ。まさに現代のメジャーリーグが求める「理想の打者像」にフィットする。

 通算本塁打数では松井の332本(10年間)に対し、182本(9年間)と大きな差があるが、打者の総合力を示すOPSを用いれば、「松井並みのスラッガー」と評価されても何ら不思議ではない。

 さらに言うと、鈴木誠也は松井に「無かった」ものも備えている。それが、「守備力」と「スピード」だ。

 松井も日本時代にゴールデングラブ賞を3度受賞しているが、肩の強さも含めた守備力で言えば、鈴木誠也のほうが明らかに上回る。スピード面でも近年は盗塁に対する意識自体が薄いため、数こそ稼げていないが、2019年にはシーズン25盗塁を記録するなど、“その気になれば”トリプルスリーを狙えるポテンシャルもある。

 野球界には、「5ツールプレイヤー」という言葉がある。

「ミート力」「長打力」「走力」「守備力」「送球力」という野手に必要な5つの要素を高いレベルで併せ持つ選手のことだ。鈴木誠也は、まさにこれに該当する。

 過去にメジャーリーグでプレーした日本人選手と比較しても、例えば純粋な「長打力」であれば松井に分があるだろう。「ミート力」であればイチローや青木宣親のほうが上かもしれない。しかし、「5ツール」すべてを高レベルで兼ね備えているという意味では、鈴木誠也は過去の日本人メジャーリーガーの中でもトップと言っていい。

 また、ポジションが「外野手」であることも大きなメリットだ。

 過去にメジャーリーグで成功を収めた日本人選手は、松井、イチローに代表されるように外野手が多い。天然芝への対応など、アジャストしなければいけない要素が多い内野手よりは、外野手のほうが「成功の確率」が高いのは歴史が証明している。

 その意味で、メディアが予想する年俸10億超の契約は決して「異例の高額契約」というわけではない。明確な基準と確かな数字をもとにはじき出された「鈴木誠也への期待値」だ。

 もちろん、それだけの高額契約を結べばプレッシャーも大きい。メジャー球団、さらにそのファンは日本以上にシビアだ。

 果たして鈴木誠也はメジャーからの高い期待値に応えることができるのか――。

 カープの4番から、メジャーを代表する打者へ……。ポスティングシステムによるメジャー移籍が、その第一歩になる。