監督として1年間もたない、と思い詰めていた

 この7連敗のときは苦しかった。監督として最初の洗礼を浴びせられたというか、どうやってチームを立て直していいかまったくわからない。選手時代には連敗したとき、自分から声をかけてチームミーティングを行っていたが、監督という立場ではやることなすことすべてが裏目に出てしまう。

 この時期は自分でも驚くくらい打ちひしがれていた。まだ開幕して間もないのに、「もうこれは無理だ……監督として1年間もたない……」と思い詰めていた。自分の野球観、指導観、これまで積み重ねてきた自信や経験が完膚なきまでに打ち砕かれた。常に「どうして? どうしてこれで勝てないんだ?」と自分に問いかけていた。なんとか出口を見つけようと、必死でもがいていた。

 今の僕にしてみれば「まあ、7連敗くらいしょうがないよ」と思えるのだ。何度も連敗を経験して、「そういうこともあるよな」と思えるようになったし、「そういうときは何をやってもダメなんだ」ということも身に沁みてわかってきた。もちろん連敗はショックだし、その期間は苦しくて苦しくて仕方ないが、5年間の監督経験を経てやっと受け入れることができるようになった。でもこのときは監督としてスタートを切ったばかり。そんな達観した境地になど辿り着けるはずもない。

 このシーズンは最初の7連敗の後も何度も連敗を喫した。6月には5連敗、7月には二度の5連敗、9月にも5連敗……この年の成績は58勝84敗2分、借金26。球団歴代ワースト2位タイの負け数というのだからひどいものである。

 あまりに連敗が続くものだから、試合中はあちこちからヤジが飛んできた。ヤジでおもしろいのが、スタンドから「野村、おまえの考えているサインの逆をやれ!」と声が飛んできたときだった。それを聞きながら僕は「いいところを突いてくるな……でもな、今出してるサインがその逆なんだよ。その逆のまた逆をやるってことは最初と同じになってしまうんだよ……」と心の中でつぶやいている。

 どういうことかというと、あまりに連敗が続くものだから、僕はすでに「自分の思うことの逆をやってみよう」という発想で動いていたのだ。だけどスタンドからは、さらにその逆をやれという声が飛ぶ。いったいどっちが正解なのか……今は笑い話にできるが、当時はもちろん笑える余裕なんてない。