連敗中は辛抱するしかないと悟った

 何度も連敗をして悟ったのは、連敗中は辛抱するしかないということだ。眠れなくても朝はくるし、気分転換しようとしても何をやっても気持ちは乗らない。よく記者の人が「あのときはこういう作戦もあったんじゃないですか?」と声をかけてくるが、そういう作戦は僕たちはほとんど想定済みだ。状況に応じて5通りくらいの作戦を立てて、その中でベストと思われるものをチョイスしている。

 最終的にサインを出すのは監督の仕事だ。戦況を見定めて、複数の選択肢からひとつを選んで実行する。サインの出し方ひとつでベンチの空気は変わる。バッティングコーチの空気、ピッチングコーチの空気、守備走塁コーチの空気……彼らは何を言うわけでもないが、僕の決断ひとつでベンチの空気はガラッと変わる。

 ベンチでは監督が後ろに座り、コーチは前に立っている。みんな正直だから僕が意外なサインを出すと、背中があからさまに動揺して見える。「え、ここでエンドラン……?」のように。僕が就任して以降、コーチとは積極的にミーティングを行ってきた。試合前、試合後、反省会……なんでもいいから思ったことを言葉にしてもらうことで、みんなで状況を確認し、議論も深まると思っていた。

 しかし連敗が続くとベンチも微妙な空気になる。動揺するコーチの背中を見て、また僕も考え込んでしまったり……当時は自分もいっぱいいっぱいで、それを打破する方策などなかなか考えられなかった。

●野村謙二郎 のむらけんじろう
1966年9月19日生、大分県出身。88年ドラフト1位でカープに入団。プロ2年目にショートの定位置を奪い盗塁王を獲得。翌91年は初の3割をマークし、2年連続盗塁王に輝くなどリーグ優勝に大きく貢献した。95年には打率.315、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2000安打を達成した05年限りで引退。10年にカープの一軍監督に就任し、積極的に若手を起用13年にはチームを初のクライマックス・シリーズに導いた。14年限りで監督を退任。現在はプロ野球解説者として活躍中。