球団歴代最多ホールドを記録し、3連覇を支えた鉄腕リリーバーが、昨年12月に現役を引退した。30歳の若さでの引退を惜しむ声も多かったが、鉄腕の体は限界を迎えていた。今回の独占ロングインタビューでは、カープでの12年間、引退を決めた本当の理由、そしてこれからの人生について赤裸々に語ってもらった。今村猛から贈られたメッセージを届ける。(全5回のうち1回目・取材は1月中旬)

2021年限りで引退した今村猛の現役時代の写真。

◆故郷にどんな顔で帰ろう……普段と変わらない雰囲気に感謝

ーまずは12年間の現役生活、お疲れ様でした。引退後はどこを拠点にして第2の人生を始めておられますか?

「年末年始は地元の長崎に帰っていましたが、今後は広島を中心にさまざまな活動をしていく予定です」

ー今回の帰省は、これまでと違った感覚だったのではないかと思います。故郷ではどんな時間を過ごされましたか?

「昨年はコロナの影響もあり帰省できなかったので、2年ぶりに家族に会いました。久しぶりですし、現役を引退したこともあって、どんな顔で帰ろうかと思っていたのですが(苦笑)、家族も地元の同級生も、普段と変わらない雰囲気で迎えてくれてありがたかったですね」

ー改めて、カープでの12年間は今村さんにとってどんな時間でしたか?

「うーん、そうですね……(熟考)。12年と聞くと長く感じますが、あっという間の時間だったというのが正直な感想です。あっという間でしたが、ものすごく濃い時間でもありました。18歳でカープに入団して、本当にいろいろなことを経験させてもらいましたから」

プロ3年目の2012年には自己最多の69試合に登板し、防御率は1.89を記録。WBC日本代表として世界の舞台にも立つなど飛躍の1年となった。

ー12年間で一番印象に残っているシーズンはいつになりますか?

「そうですね……一番となるといつだろう。やっぱり25年ぶりに優勝した2016年シーズンですかね。印象に残っている試合もいろいろありますが、やっぱり優勝が決まった9月10日の巨人戦(東京ドーム)が一番印象深いです」

ーご自身のYouTube(カピチャンネル)でもその試合をあげられていましたね。せっかくなので、印象深い試合をもう1試合教えてください。

「それなら2017年の七夕の試合(7月7日・ヤクルト戦)ですね。神宮で9回表に6点を奪って逆転した試合です。新井(貴浩)さんの本塁打で逆転したあとの9回裏にマウンドに上がったのですが、劇的な攻撃のあとだっただけにいつもより緊張したのを覚えています」

ーあの試合はカープファンの間でも語り継がれるほどの伝説になっています。ちなみに悔しさという感情が忘れられなかった試合はありますか?

「それはたくさんありますね。1試合あげるなら、2012年5月27日のロッテとの交流戦(マツダスタジアム)です」

─(資料を振り返り)この試合、3点リードで9回表を迎え、当時の守護神だったサファテ投手がマウンドに上がるも、ロッテの反撃にあい、1点を奪われたところで今村さんが登板されました。しかし、牽制悪送球で1点差となり、最後は内野安打でロッテに同点を許しています。

「この頃は、サファテを含め、リリーフ陣の調子が上向いておらず、先発に迷惑をかけることが多かったので、何とかしたいという強い気持ちでマウンドに上がったのを覚えています。ただ結果的には先発の大竹(寛・現巨人コーチ)さんの勝ち星を消してしまいました。とにかく悔しくて、あの試合のことは今でも思い出しますね」(続く)

2012年5月27日のロッテ戦では、3点リードの9回に打ち込まれたクローザーのサファテに代わりマウンドに上がるも、同点に追いつかれ先発の大竹を白星を消した。あまり感情を表に出さない今村だが、この日の登板後はベンチで悔し涙を流した。

◆今村猛(いまむら たける)
1991年4月17日生、長崎県出身。30歳。清峰高-広島(2009年ドラフト1位)。プロ2年目にリリーフに転向すると54試合に登板。2012年には球団新記録となる29試合連続無失点をマークするなど、69試合に登板。オフには侍ジャパン入りを果たし、リーグを代表するリリーフへと成長した。2016年は勝利の方程式の一角を担い67試合に登板し、25年ぶりのリーグ優勝に貢献。リリーフとして球団史上初の3連覇を支えた。2021年12月に現役を引退。