2019年に開催した「オレンジリボン勉強会」の様子

◆選手が社会貢献を行う意義とは

 プロ野球選手をはじめ、アスリートやアーティスト、タレントなど著名人が社会貢献活動をすることには、どんな意義があるのでしょうか。

 少し前までは、支援活動をしていることを公にしたくないという選手もたくさんいました。公表するかどうかはもちろん自由なので、そのような思いも尊重されるべきだと思います。しかし、最近は多くの選手が「自分の支援活動をどんどん発信して世の中にこんな課題があると知ってもらいたい」と言います。人々から注目される仕事をしている立場を、グラウンドの外でも活用していこうというわけです。自身が取り組む社会課題への理解が深いほど、「もっと多くの人に知ってもらわなければ」という思いがいっそう強くなるようです。

 例えば、私のような一般人がSNSで「こういう社会課題があるからみんなで支援しましょう」と呼びかけても、その声が届く人数は残念ながらごくわずか。しかし、プロ野球選手が呼びかければ、気付いてくれる人の数は何万人、何十万人にも上ります。実際、2年前にはその効果によって『コロナ基金』のクラウドファンディングに8億円以上の寄付が、そして昨年発足した『選手会ファンド』のクラウドファンディングでも一カ月ほどで1000万円を超える寄付が集まりました。この絶大な発信力への『自覚』が、最近のプロ野球選手には芽生えていると感じます。

 世の中には、まだ知られていない社会課題がたくさんあります。ジェンダーの理解において日本は後進国だと言われていますし、最近メディアでも取り上げられるようになったヤングケアラーの問題も、その実態を知らない人はまだたくさんいるでしょう。他にも子どもの貧困、フードロス、ホームレス問題など、平和だと思われる日本にも目を向けるべき社会課題が山積みです。発信力のあるプロ野球選手は、このような社会課題とファンとをつなぐ役割を担うことができます。欧米ではこのような役割もプロスポーツの使命だと捉えられているのです。

◆さらに踏み込んで『啓発』を行う

 NPO法人ベースボール・レジェンド・ファウンデーション(BLF)でも、プロ野球選手にそのような役割を担ってほしいという思いでさまざまな選手の活動をサポートしていますが、BLFでは『発信』から、さらに一歩踏み込んで『啓発』まで行うことも意識しています。その手段の一つとして、選手の活動の勉強会を開催しています。

 2019年にはソフトバンクの千賀滉大投手が支援する児童虐待防止のオレンジリボン運動をファンの方に知っていただくため、東京と福岡で『オレンジリボン勉強会』を開催しました。それぞれ30名ほどの野球ファンの方々が参加し、オレンジリボン運動を運営する児童虐待防止全国ネットワークの理事の方に、日本の児童虐待の実態について講義していただき、ディスカッションなどのグループワークも行いました。参加者からは「ニュースでしか聞いたことがなかった児童虐待の現実を知ることができた」「これからは自分に何ができるか考えたい」との声があり、支援に対する意欲も湧いているようでした。千賀投手からは参加者全員にサイン色紙のプレゼントもあり、選手との仲間感も生まれました。

 2020年はコロナ禍により開催を断念しましたが、2021年にはBLFの学生インターンたちが楽天・則本昂大投手の子どもの教育支援と、オリックス吉田正尚選手の開発途上国の子ども支援の勉強会を開催してくれました。それぞれの団体の方にコロナ禍において悪化する現状について講演していただいたり、私たちに何ができるのかをディスカッションしたりすることで、支援の大切さをより深く理解いただけたようです。勉強会では両選手ともに参加者に向けて思いのこもったビデオメッセージも寄せてくれました。

 こういった勉強会を開催することで、社会課題の『認知』だけでなく、より支援につながりやすい『理解』の域まで持っていくことができ、それによってサステナブルな支援が生まれるのではないかと思います。

 BLFでは今後も継続的に選手たちの活動の勉強会を開催したいと考えていますので、ぜひ社会課題を深く知る機会として、読者のみなさんもご参加いただけたらうれしいです。

 

岡田真理(おかだ・まり)
フリーライターとしてプロ野球選手のインタビューやスポーツコラムを執筆する傍ら、BLF代表として選手参加のチャリティーイベントやひとり親家庭の球児支援を実施している。著書に「野球で、人を救おう」(角川書店)。