開幕ダッシュに成功したカープ。シーズン前の下馬評を覆すチームの根幹は、「スカウティング」と「育成」であろう。即戦力ルーキーが躍動し、叩き上げの下位指名選手も力強い全力プレーを見せる。

今季からカープ投手コーチに就任した髙橋建氏。

 そんなカープの「スカウティング」について、3月30日に発売された新刊『眼力 カープスカウト 時代を貫く惚れる力』(サンフィールド)の著者である坂上俊次氏(中国放送)が、“流しのブルペンキャッチャー”としてドラフト候補選手の球を受けながら取材するスポーツジャーナリスト安倍昌彦氏とカープドラフト、スカウトについて対談を展開した。

 連載3回目の今回は、お互いが印象に残ったドラフトにまつわる話題をお送りする。

◆あえて固めることもバランス

坂上「カープは苑田スカウトが45年間スカウトに携わっておられます。安倍さんが思う、カープの最高のドラフト、記憶に残るドラフトはいつですか?」

安倍「逆に坂上さんは、何年のドラフトが記憶に残っていますか?」

坂上「私が取材させてもらっていて、一番印象に残ったのは、小園海斗選手、島内颯太郎投手、林晃汰選手らを獲得した時です」

安倍「高校生が豊作だった、2018年ドラフトですね」

坂上「2018年ドラフトの前年、カープは捕手が揃っている中で中村奨成選手(広陵高・2017年ドラフト1位)を獲り、もっと言うと苑田スカウトが特集番組取り上げられて有名になって……。翌2018年は投手のドラフトかな?と思ったところ、1位指名で小園選手を獲り、3位で林選手、4位で中神拓都選手、6位で正隨優弥選手、7位で羽月隆太郎選手、育成で大盛穂選手など、徹底的に野手を指名しました。バランス良く獲得ことが、バランスなのではなく、あえて固める事もバランスなんだと学ばせてもらったドラフトでした」

安倍「確かにそうですね。そう言う意味では、2020年ドラフトも、1位で栗林良吏投手、2位・森浦大輔投手、3位・大道温貴投手、4位で高校生の小林樹斗投手など、投手を5人並べたと言う時もありますよね。確かにカープというのは、今年は大砲を獲ろうと思うと、大砲で押していくというところがありますよね。僕自身、一番大成功だったのではないかと思うカープドラフトは、1994年のドラフトです」

坂上「1位で山内泰幸投手、2位がバッターで最多安打も獲得した嶋重宣選手。3位が朝山東洋選手、4位が高橋建投手、5位・横山竜士投手、6位・田村恵選手、などが指名された年ですね」

安倍「そうですね。合計7名を指名したドラフトなんですけど、選手としてもそうですが、引退後に指導者になったり、スカウトになって、ものすごく大きな仕事をされている方達が多くいます。たとえば朝山選手、髙橋投手、横山投手は現在カープのコーチに入っていたり、田村さんはカープのスカウトとして全国を見ておられます。後にチームの核になれる人材を獲得できたドラフトということで、僕は1994年のドラフトが後々考えると素晴らしいドラフトだったのではないかと思います。やはりドラフトというのは、人材を獲得する行事ですから、単に選手ということだけではなく、ゆくゆく指導者になっていく人たちを評価すべきだと思っているんです」

坂上「なるほど。この世代は、上の世代が野村謙二郎さんや江藤智さんであり、佐々岡真司さん(現カープ監督)です。カープの個の力が強くて、猛練習の時代も経験して、その後のマーティー・ブラウン監督以降の時代も経験している選手たちですよね。両方の時代のつなぎ役になっているのが1994年のメンバーなのかなと思いました」

安倍「なるほど、確かにそうですね」

坂上「高橋建さんは、キャンプで222球の投げ込みという時代を経験して、ブラウン監督時代ではモデルチェンジして少ない球数で抑える時代、その後はメジャーも経験しています。そう考えると、時代のつなぎ役が大量に誕生したのがこの時代のドラフトだったんですね」

安倍「カープの歩んだ時代を考えると確かにそうですね」

(第4回に続く)

対談を行った安倍昌彦氏(写真右)と坂上俊次氏(写真左)