昨年、先発として好投するも、勝ち星がつかなかった約3カ月間の姿。プロ1年目から先発ローテを守り、結果を残し続ける理由。そして素顔ー。この連載では、右腕を間近で見続けたキーマンが回想する、森下暢仁の進化の秘密に迫る。

【キーマンが明かす秘話・栗林良吏(前編)】

栗林良吏(左)と森下暢仁(今季の春季キャンプで撮影)

 大学時代に出会い、カープで再会を果たした森下と栗林。勝ち試合の最後を締める右腕に森下が進化を続ける理由を聞くと、意外な答えが返ってきた。クローザーの眼に映る森下の姿とは。

◆周りから仲が良いと言われるのは暢仁のおかげ

 森下暢仁と栗林良吏に共通点は多い。大学時代、日本代表で共にプレーし、森下は卒業と同時に、カープにドラフト1位で入団。栗林はトヨタ自動車を経て、1学年下の森下から1年遅れで、同じくドラフト1位でプロの門戸を叩いた。

 そして2人ともに、圧巻の成績で新人王に輝き、2021年には東京五輪に出場。日本代表でも、カープ同様に森下が先発、栗林が抑えの役割を担い金メダル獲得に貢献した。栗林は森下の投手としての魅力をこう表現する。

「一番は先発としてのゲームメーク能力の高さです。チームを勝たせる投手というのは、暢仁のような投手のことを言うんだろうなと思います。また、ストレートの強さを1回から最後まで一定して同じ出力で出せること、ピンチを迎えた時のギアチェンジも魅力だと思いますね」

 栗林と森下は練習中、キャッチボールのパートナーを組むことが多い。そのキャッチボールを通しても投手としての凄みを感じると語る。

「登板が近づくにつれて、球が力強くなります。登板1日前になると、すごく良い球がくるようになるので、試合を考えながらキャッチボールをしているんだと思いますね。また、キャッチボールのあとに、『今日どうでしたか?』と聞いてくることも多いです。そういう面を考えても、向上心を忘れない投手だと思いますね」

 ただ、森下の魅力は投手としての能力にとどまらない。栗林は、森下のある能力が、投手としての才能を引き立てていると分析する。

「誰とでも接することができるコミュニケーション能力の高さです。人なつっこいと言うか、甘え上手と言うか(笑)、練習中も、練習以外でも暢仁のほうから話しかけてくれることが多いです。無理して気を遣う関係ではなく、ラクな気持ちで接することができる存在ですね。また、暢仁は僕だけではなく、先輩方とも仲良くしています。自分だったら、先輩に自ら話をしにいくのはためらってしまいがちですが、暢仁にはそれがありません。話すことも前向きな言葉が多いです。プラス思考でポジティブ。暢仁の周りには、コミュニケーションをきっかけに、いつも人が集まっている印象があります」

 栗林のプロ1年目。新しい環境にも関わらずチームに早く馴染み、野球に集中して取り組めるようになった背景には森下の存在があった。

「暢仁の後ろにいるだけで、大瀬良(大地)さんや九里(亜蓮)さんといった投手の先輩、そして野手の方々との会話に、自分も入れてもらうことができました。それがあったからこそ、早くチームに溶け込めたと思っています。大学時代に一緒に野球をやっていたというのもありますが、カープ入団時には暢仁しか頼る人がいませんでした。周りから仲が良いと言われることもありますが、それは僕が暢仁を頼っているのでそういう風に見えているのだと思いますね」(続く)

栗林良吏(くりばやし・りょうじ)
1996年7月9日生(25歳)・愛知県出身。プロ1年目から守護神として活躍。53試合に登板し、37セーブ・防御率0.86の成績で2021年の新人王に輝いた。今季も絶対的守護神として最終回のマウンドに君臨する。