交流戦でホークスに3連敗、カープは「逆襲」の思いを胸に、地元6連戦に挑む。下位指名からチャンスをつかんだ男。猛練習で技術を培った男。そんな彼らの底力が試される。

苑田スカウトは明治大学時代の野村祐輔投手を追い続け、ドラフト1位入団を実現させた。

 カープの歴史を支える「スカウティング」について、3月30日に発売された新刊『眼力 カープスカウト 時代を貫く惚れる力』(サンフィールド)の著者である坂上俊次氏(中国放送)が、“流しのブルペンキャッチャー”としてドラフト候補選手の球を受けながら取材するスポーツジャーナリスト安倍昌彦氏とカープドラフト、スカウトについて対談を展開した。

 連載9回目の今回は、“スカウトの目線”についての話題で盛り上がった。

◆プレーの後の仕草と態度から選手を見抜く

坂上「スカウトの方々が“プレーではない、どんな部分を見ているのか”という面でお話をさせていただきます。カープの苑田スカウト統括部長に『野村祐輔投手が明治大時代、投球の他に何を見ておられたのですか?』と質問すると、『投げ終わり』とお聞きしました。たとえばマウンドを降りた後にトレーニングを行っていたり、ランニングをしたりと、できることをしっかりやっていたそうです。また、大学時代アイシングをしている場面を見たことがないと。野村投手に聞くと『アイシングはバスの中でやればいいので』ということで、味方の応援、自分の強化トレーニングを行っていたそうです。スカウトはこういう部分まで見ているんですね」

安倍「そうですよね。体力が必要なことはもちろんですが、やはり人間力ですよね。これは野球の世界だけではないと思います。ちなみに苑田スカウトの後ろから、苑田さんの目線を追ってみたことがあるんです。すると、坂上さんが先ほど言ったように、投手が投げ終わって、ベンチに帰っていくシーンをずっと見ていたり、凡退した打者の直後の動きを見ていたりしていました。選手が挫けそうな場面に、どういう態度をとるのかをご覧になっていたように感じました」

坂上「それはヒントですよね。私の仕事で言うと、たとえばラジオの実況中継は、球場のどこを切り取るかというか、アナウンサーの“眼力”、“チョイス”だと思うんです。そういう時に少しスカウト目線を入れて、アウトになった時の表情の描写を1つ入れるとか、代打で出ていく時に、たとえばスッと出てきたのか、準備はどうだっただとか、打たれた後のベンチでの様子など、そういうのをもっと描くことができれば、人間が見えてくるんでしょうね」

安倍「それすごく感じますね。ラジオの実況アナウンサーの方って、アナウンサーの方の“眼”がいわゆるカメラワークですよね」

坂上「そうなんですよね」

安倍「選手の仕草など、1つでも描写が入ると聞いている方ももっと面白く感じるかもしれませんね」

坂上「今時はスマホで一球速報を見られる方も多いと思います。球種、球速なども出て、アウトカウントも出て、ストライク・ボールも出る。我々がそれに太刀打ちしようと思ったら、見えない部分、人間の部分を切り取らないと、そういう一球速報に勝てないと思います。ある先輩が“完全描写”ということを言っておられまして、『徹底的に描写なんだ』と。持ってきた数字ではなく、描写なんだと言われて、なるほどなと、年齢を重ねるごとに思います。たとえばベンチにファールボールが飛んできた時に避け方まで描写することで、ベンチで応援している選手がいて、ファールを機敏に避けて、その選手がゲーム中盤に出て、結果を残すと、全てが縦糸、横糸でつながる。そんなことができるようになりたいなと思います」

安倍「それができるから、一球速報とはまた違った面白さ、臨場感を感じることができますよね」

坂上「しかも描写するとその向こうに人が見えてきて、すごいとか、熱いなどと言わなくても、ちゃんと描写すればその向こうには、見えてくるんですよね」

安倍「その通りですね。ラジオの実況にはアナウンサーの方と解説の方と人間が参加しています。球場で野球をやっているのは、まさに人間だから、その人間たちが、人間たちを描写しないで何をやるんだと思っちゃいますね」

(第10回に続く)

対談を行った安倍昌彦氏(写真右)と坂上俊次氏(写真左)