2022年4月10日、J1第8節の広島-福岡戦。サンフレッチェ広島の東俊希がコールされたポジションは“ボランチ”だった。
試合はおろか、練習でもしたことがない未経験のポジション。 それでも堂々とピッチに立ち、試合終了間際の劇的ゴールを演出。 どんなポジションでも臆することなくチャンスをつかみ取る若きマルチプレーヤーの魅力に迫る。(全3回のうち1回目)
◆あらゆるポジションをこなす万能型。初挑戦のボランチで劇的勝利を演出
ーー4月10日の福岡戦(〇1−0)で、柴﨑晃誠選手の劇的ゴールをアシストしました。あの試合を振り返っていかがですか。
「あのゴールは、アディショナルタイムの終了間際でしたよね。僕はボランチで出場していて中央にいたのですが、左サイドのカシ(柏好文)くんが(佐々木)翔くんにパスを出してから中に入ったので、空いた左サイドに入ってボールをもらいました。そこからクロスを入れるというイメージは描けていたので、その通りにプレーはできたのですが、実はあの時、足がつっていたんです。ただ、『これが最後のワンプレーになる』と思っていましたし、とにかくここでゴールを決めてもらいたいという気持ちだけで、なんとかクロスを入れました」
ーースタジアムが興奮に包まれましたね。
「選手も含め、あの日あの場所にいたみんなが、ものすごく興奮していたと思います。あの1点がなければ、引き分けのまま終わっていました。あの試合で劇的な勝ち方ができたからこそ、今、チームにいい波がきているのだと思います」
ーーたしかに、劇的な展開での勝利は、チームにとっても活力になると思います。
「福岡戦は、コロナで離脱したメンバーもいる中で、僕が急遽ボランチに入った試合でもありました。ボランチは練習でもプレーしたことのないポジションだったのですが、そうしたアクシデントがあっても勝てるということが証明できたので、選手のみんなも自信がついたと思います」
ーー4月23日のルヴァンカップ徳島戦(〇4―0)でも、柏選手のゴールをアシストされました。
「あの場面は、(森島)ツカサくんにパスを出してワンツーでもらったのですが、それが前に抜け出すいいボールでした。(満田)マコくんもすごく分かりやすい動き出しでこちらに上がって来てくれたので、迷わずパスを出したんです。マコくんのボールはGKに弾かれてしまいましたが、ゴール前に走り込んでいたカシくんがこぼれ球を決めてくれたので、良かったですね」
ーーこれまではシャドーやサイドが主戦場でしたが、今シーズンはボランチ起用も増えています。どのポジションもこなせる点は、東選手の強みではないでしょうか。
「そうですね。選手全員が複数のポジションをプレーできるわけではないので、どのポジションにも対応できるのは、自分のストロングポイントだと思っています。シャドーでもボランチでも、やるべきことをしっかりと整理してプレーするようにしています」
ーー器用なタイプなのでしょうか。
「監督やコーチに『吸収が早い』と言われることはありますね。昔から、サッカーの動画を観て研究していた成果かもしれません。ほかには、『何でもやっちゃう』という僕の性格的なものも起因しているのかもしれません。一つのポジションを突き詰めることも大切だと思いますし、どのポジションにもある程度対応できる柔軟性も大切です。何か一つでも自分らしい特徴を持っていたいと思っています」
ーー特に手応えを感じるポジションは?
「シャドーには、得点を上げられるポジションならではの面白さがありますし、ボランチには、真ん中でプレーする面白さがあり、それぞれで違う手応えを感じられます。特にボランチは最近始めたばかりのポジションですが、かなり手応えを感じています。周りとバランスを取りながら判断するプレーが多く、パスコースもいろいろな選択肢があるので楽しいですね。磐田戦で初めてタイシ(松本泰志)くんとボランチを組んだのですが、タイシくんはどんどん前に出ていくタイプなので、僕はバランスを取って、意識的に後ろに残るようにしていました。自分が主体となって動くことも大切ですが、ボランチでは、味方の動きを見て判断することも意識しています。あとは、左足のキックも僕のストロングポイントだと思っています」
ーー取材(4月26日)時点で、チームは直近6戦4勝2分と負けなし。リーグでは8位に位置しています。開幕からここまでの自分のプレーに点数をつけるとしたら何点でしょうか。
「そうですね……、開幕戦からスタメンで出場することができていなかったこともあり、現時点では60点ぐらいだと思います。最近になって、やっと試合に出場できるようになってきましたが、これからが勝負だとも思っています。ただ、ボランチでプレーして、ある程度できるという自信がついてきましたし、セットプレーでキッカーを任せてもらうことも多くなりました。良いボールを蹴れているという感覚はあるので、これからもっと状態を上げていけると思っています」