2005年から12年間をサンフレッチェで過ごし、J1リーグ通算得点数では歴代2位の161得点を上げるなど数々の記録を持つ佐藤寿人氏。

 3度のJ1優勝を果たし、数々のゴールとタイトル、あふれるクラブ愛でいまも多くのファン・サポーターに愛されている。

 共に紫のユニホームを着たチームメートがピッチ上で見せた才能、意外な素顔を振り返る連載『エースの証言』。

 第4回目の今回は、サンフレッチェユース出身・野津田岳人選手との出会い、共にピッチに立った試合、そして現在の野津田選手への想いを語る。(前編)

佐藤寿人(左)は野津田岳人と、2012年〜2016年の約5年間、サンフレッチェで共にプレーした。

【野津田岳人・前編】出会いは小学6年生。高校3年生でJデビュー

 初めて会ったのは2006年、岳人が小学6年生のときです。

 サンフレッチェの選手が小学校を訪問する企画で、僕が一緒に給食を食べた教室の生徒に、岳人がいました。ファン・サポーターのみなさんには有名な話かもしれませんね。

 岳人は「来年、サンフレッチェのジュニアユースに入ります」と教えてくれました。「頑張れよ!」と激励したのですが、思い返すと生徒たちとサッカーをしたとき、うまくて目立っていたんです。能力が高く、あれならジュニアユースから声が掛かるな、と感じました。

 その後、ユースに昇格した頃から名前を聞くことが増えました。初めて一緒にプレーしたのは2011年、岳人が高校2年生のときだったと記憶しています。

 この年からプロの試合に出場できる2種登録選手となり、トップチームの練習にも頻繁に参加するようになりました。 当時、印象に残っているのはシュートのうまさ。左足を豪快に振り抜くイメージが強いかもしれませんが、しっかりコースを狙って決めていました。キャンプ中のシュート練習で、一番多くゴールを決めたこともあるくらいです。

 森保一監督が就任した2012年、第2節の清水戦でJリーグにデビューしました。高校3年生でも、危なっかしいところはなかったです。実力があっても謙虚で、向上心が強い岳人は、先輩にかわいがられる愛されキャラ。僕だけでなく、誰もがかわいがっていました。

 この年で印象に残っているのは、第10節の柏戦です。4−2で迎えた後半アディショナルタイムに交代出場した岳人は、直後に自陣で(石原)直樹のパスを受けると、直樹に戻し、ドリブルで進む直樹とともにカウンターで攻め込みました。そのまま直樹が5点目を決めましたが、並走してゴール前までスプリントした岳人が、左足と並ぶ武器である走力を発揮した場面でもありました。

 2013年、岳人のJリーグ初ゴールもよく覚えています。

 第12節の甲府戦、4−1で迎えた85分に僕との交代で出場し、86分に5点目を決めました。子どもの頃からあこがれていたスタジアムでの初ゴールで、すごくうれしいだろうな、と思いましたし、僕がプロで唯一、エリア外から“右足”で決めた先制点などでハットトリックを達成したこともあり、とても思い出深い試合です。(後編に続く)

◆野津田岳人(のつだ がくと)
1994年6月6日生、広島県出身。ポジション・MF。
中学3年時の2009年からユースでプレーし、中心選手として数々のタイトル獲得に貢献。高校3年時の2012年にJリーグデビューを果たす。2016年から複数のクラブに期限付き移籍し、2019年に復帰。2021年に再び期限付き移籍し、今季から復帰した。

◆佐藤寿人(さとう ひさと)
1982年3月12日生、埼玉県出身。2005年にサンフレッチェに移籍。3度のリーグ優勝に貢献し2012年にはMVPと得点王を獲得。2020年限りで現役引退。通算のJ1得点数は歴代2位。引退後は指導者・解説者として活動中。