今季、メジャーリーグ移籍を果たした鈴木誠也(カブス)。5月末に故障により負傷者リスト入りとなったものの、戦列復帰してからは活躍を見せはじめている。ここでは鈴木誠也がカープで歩んだ道を、当時の独占インタビューの言葉から振り返っていく。

 プロ1年目の2013年、鈴木はチームとしては14年ぶりとなる高卒新人野手の一軍昇格を果たし、一軍初安打、初打点を記録。端から見れば順調に映るが、この時鈴木は“1年目の成果”ではなく、もっと先を見据えていた。ここでは、プロ1年目オフに聞いた鈴木の思いをお送りする。

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プロ1年目、2013年当時の鈴木誠也選手

 「プロの世界はやったもん勝ちだって思っています」

 鈴木誠也のプロ1年目は、高卒新人野手としては順調そのものだった。春季キャンプで1日限定とはいえ一軍帯同を勝ち取り、シーズン終盤には11試合ながら一軍公式戦にも出場。同期入団選手より一足先に、初年度から貴重な経験を積み重ねていた。しかし、本人の中に残ったものは充実感ではなく、どちらかと言えば挫折感にも似た苦い気持ちだった。

 「今まで勉強もほとんどせず、ただ野球にだけ打ち込んできたので、野球だけはしっかりやらないといけないという思いでした。でも、プロに入ってみて自分が考えているよりもすごい世界だったというか、高校生のときはまだ未熟で『プロに入ってもどうせ打てるんだろうな』っていう気持ちでいたんです。それが3月にシーズン入って『早く一軍に上がらなきゃ』って焦ってもいたし、本物のプロ野球選手が本気を出して、二軍といえどもすごい選手が多かったので……。それで最初の壁にぶつかって。打てないし結果も出ないし、考えてはイライラしてという悪循環でした」

 鈴木の野球に対する意識の高さは、ルーキーイヤーから別格だ。高卒新人野手で一軍昇格を果たしたのは、1999年の東出輝裕(現・一軍野手総合コーチ)以来。そして昇格するだけではなく初ヒット、初打点、初スタメンも記録した。これを“壁にぶつかった”と表現する選手は、そうはいないだろう。

 「二軍のときは『打てる、打てる』と思って打席に入っていたんですけど、一軍のときはどうしても『打ちたい』、『結果を出したい』っていうことばかりが頭にあって、全部がバラバラな状態になってしまいました」

 結果を求めるあまり、打席内で気持ちは逸るばかりだった。「打ちたい」という気持ちが力みを生み、自分のスイングができなくなるという悪循環。そんなとき折れそうな心をつなぎ止めたのが、欠かさず続けた日々の猛練習からくる自信だった。

 「『あいつは口だけ』って思われるのも嫌だし、自分にさえ勝てれば絶対に成功する。自分にさえ負けなければ何とかなると思っています。二軍のときも打てないときは、体がきつくても休まなかった。きついから練習をしないっていうのは違うと思うし、きついながらも練習していたら結果が出てきていたので、そういう面では自信になっている部分もあるんです。少しでも野球に携わる時間を長くすれば、人よりも野球のことを考えていられるし、プロの世界はやったもん勝ちだって思っています。その日の試合で打てたら何もしない、打てなかったら練習するっていう選手にはなりたくないんです」

 能力の高さは折り紙つきだった。とはいえ、プロ入り直後の自己評価は周囲が思うほどは高くない。それどころか“同学年のスター選手”との間には、確実に差が存在することを自覚していたという。

 「大谷(翔平・現エンゼルス)くんや藤浪(晋太郎・阪神)くんは、高校生のときから注目されていた選手だったし活躍して当たり前というか。あの二人は天才バッターとか、天才ピッチャーなのかなって思います。でも自分はそうじゃないし、天才じゃない。努力してやらないといけない。天才だったら3月の時点で壁に当たらず、バンバン打っていると思うんです。それが無理だった時点で天才じゃないと思うし、練習しないとダメなんだと思って。そうしたら良い結果が出てきたんで、改めてそういう努力の選手なんだと思いました」

 来る日も来る日も、泥まみれになりながら練習に明け暮れる日々。鈴木がプロ野球選手として花開き“日本の4番”と呼ばれるまでになったのは、持って生まれた才能もあるが、明らかに他を圧倒する努力の才能があったからに他ならない。

 「野球しかやってきていなくて、せっかくこういう世界に入れて、これで努力しなかったらもったいなさ過ぎますよね。自分で自分を潰したくないんです。練習して練習して、それで結果が出ない方がまだいいです。自分の才能がなかっただけと思えたらいいんですけど、あのとき練習しておけば良かったって思いたくないから、一生懸命やりたいですね」

 野球に向き合う姿勢は、プロ1年目も現在も変わらない。この先も現状に満足しない“努力の天才”の足が止まることは決してない。

《プロフィール》
鈴木誠也(すずき・せいや)
1994年8月18日生、東京都出身。
二松学舎大付高-広島(2012年ドラフト2位-2021)-カブス(2022)
◆日本通算成績
 902試合 2976打数 937安打 打率.315 182本塁打 562打点 82盗塁
◆タイトル・表彰
 首位打者2回(2019、2021年)、最高出塁率2回(2019、2021年)
 ベストナイン6回(外野手部門:2016〜2021年)
 ゴールデングラブ賞5回(外野手部門:2016、2017年、2019〜2021年)