10月20日に開催された『2022年プロ野球ドラフト会議』。カープは事前の公表通り苫小牧中央の斉藤優汰を1位で指名。支配下で指名した7選手中4選手が“投手”というドラフトとなった。

 ドラフト会議は各球団スカウトの情報収集の集大成であり、プロ入りを目指すアマチュア選手たちにとっては、運命の分かれ道ともなる1日だ。カープはこれまで、数々の名スカウトたちが独自の “眼力” で多くの逸材を発掘してきた。ここでは、カープのスカウトとして長年活躍してきた、故・備前喜夫氏が語るレジェンド獲得ストーリー『コイが生まれた日』を再編集してお送りする。

 今回は、1997年のドラフト5位でカープに入団。黒田博樹とバッテリーを組み頭角を現し、カープ一筋19年にわたり捕手としてチームを支えた倉義和の入団秘話をお送りする。

1997年のドラフト5位でカープに入団。カープ一筋19年にわたり捕手としてチームを支えた倉義和。来季は二軍バッテリーコーチを担う。

◆捕手獲得の際に重要視することは「肩=送球」と「捕球」。倉は2つの基準をクリアし、特に肩の強さは抜群でした

 1997年のドラフト会議でカープは捕手を一人指名しました。それが倉義和です。関西地区を担当していた宮本スカウトから強肩の捕手が京都にいるという話を聞き、西京極球場まで彼を見に行きました。その試合で倉は強肩もさることながら、本塁打を打つなどバッティングも良かったのでドラフトで指名しようと考えました。

 この年のドラフトでカープは捕手を獲得することは既に決まっていました。その前々年に伊与田一範(千葉経済大学付属高)を捕手として獲得していましたが、彼はこれまで捕手経験が全くありませんでした。球団としてはゼロから始めて大成してほしいと考えていたのですが、捕手という特別なポジションということもあり、入団後4年で内野手に転向してしまいました。そういうこともあって捕手の補強は必須でした。

 カープが捕手を獲得するとき最も重要視していることは「肩=送球」と「捕球」です。

 まず「肩=送球」についてですが、私たちスカウトが捕手の肩を見るとき「捕球してから投げるまでの早さ」と「送球自体の速さ」の二つを見ます。それぞれの塁へ速いボールが投げられるというのはもちろん大事ですが、それだけでは駄目です。投手が投げたボールを捕球してからいかに小さなモーションで早く投げられるか、これも捕手として重要な要素なんです。大学生や社会人では本塁から二塁まで大体1秒台を基準としています。

 他にはスローイングの正確性を見ます。例えば送球したボールがスライダー回転をするようであればタッチする瞬間に三塁側にボールが流れてしまうのであまり良い捕手とは言えません。「肩」についてはそういうところを見ています。

 次に「捕球」についてですが、一番大切なことはミットの真ん中でしっかりボールを捕球できているかです。真ん中で捕れば「パン」と響くような良い音がしますが、少しでも外れると「バシッ」という鈍い音がします。投手はその音を聞き自分の調子の善し悪しを判断しますから、どんなボールでもしっかりミットの真ん中でキャッチできることが大事です。つまり、投手を安心させるような捕球ができているかどうかです。ギリギリのボールをストライクに見せるといった技術は、プロに入団する時点ではそこまで重視していません。

 また、リードが上手い・下手などと言いますがそれは結果論であって選手を獲得する際にはあまり重視していません。カープが捕手を獲得する上でのそういった基準を倉は満たしていました。その中でもとりわけ肩がとても強かったのです。初めて彼に会ったときの印象ですが、非常に真面目で頭が良い選手だなと思いました。捕手は誰よりも頭を使うポジションですから、頭の回転が速いことも必要です。そういう意味でも、まさに捕手向きの選手だということで、ドラフトでの指名に至ったのです。

【備前喜夫】
1933年10月9日生〜2015年9月7日。
広島県出身。
旧姓は太田垣。尾道西高から1952年にカープ入団。長谷川良平と投手陣の両輪として活躍。チーム創設期を支え現役時代は通算115勝を挙げた。1962年に現役引退後、カープのコーチ、二軍監督としてチームに貢献。スカウトとしては25年間活動し、1987〜2002年はチーフスカウトを務めた。野村謙二郎、前田智徳、佐々岡真司、金本知憲、黒田博樹などのレジェンドたちの獲得にチーフスカウトとして関わった。

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