10月20日、いよいよ2022年プロ野球ドラフト会議が開催される。カープは事前に斉藤優汰(苫小牧中央)の1位指名を公表。新井貴浩新監督の初仕事となるドラフト会議に注目が集まりそうだ。

 ここでは松本有史スカウトに、カープの守護神・栗林良吏を発掘した瞬間について聞いた。2018年のドラフト会議、松本スカウトは、当時名城大の栗林を推していたものの指名に至らず栗林は指名漏れに。逸材を指名できなかった松本スカウトは彼を追い続け、2年後に1位指名を実現した。“即戦力一本釣り”までの舞台裏に迫る。

◆ドラフト指名漏れから2年後につながった両者の縁

プロ1年目には新人王のタイトルを獲得。東京五輪でも活躍し、日本を代表する守護神に成長した。

 栗林は高校の頃、ショートを守っていた選手でした。名城大に入学後に大学の監督さんから「球が速くて良い選手が入った」という話を聞いたのですが、その選手が栗林でした。速球は魅力的でしたが、最初は「4年生になるまでにケガをせず、順調に伸びていけば面白い投手になるだろう」と思っていて、複数見ている選手の1人でした。

 評価が変わりはじめたのは大学2年のとき、侍ジャパン大学代表候補に選出されてからです。代表には残れませんでしたが、ここから本格的にマークするようになりました。愛知大学野球リーグでは、速球とスライダーでも通算32勝を挙げているわけですから、着実に実力をつけていたと思います。

 2018年、彼が大学4年になった頃には複数の球団が注目する投手に成長していました。栗林は2位までに指名がなければ社会人野球のトヨタ自動車に進むことが決まっていました。あの時のドラフトでカープは小園(海斗・報徳学園高)を1位指名しましたが、当時カープはリーグ優勝していたので、ウェーバー制の2位指名は12球団で最初でした。

 チームとしては栗林でいくか、同等の評価だった島内颯太郎(九州共立大)を指名するか……という判断となりました。実は島内が3位までならプロ入りという意思表明をしていたので、栗林、島内の順番で指名もあるか? と思っていたのですが、林晃汰(智弁和歌山高・3位指名)を上位指名したいという意向もありました。そういう球団の考えがある中で、最終的に島内を2位指名したことで、あの時点では「栗林とは縁がなかったのかな」と思いました。結果的に栗林はあのドラフトでは指名がなく終わりました。

 ドラフト翌日、名城大の監督さんに「すみません、今回は指名できず縁がありませんでした」とお伝えすると「そんなことないよ。トヨタでプレーするからまた見に行ってやってください」とおっしゃいました。 彼がトヨタ自動車へ進むとまたコーチも変わりますし、どんな投手になっていくのか? と思いながら2年間見てきました。

 そしてドラフトを迎えた2020年、当時のカープは、即戦力投手がほしいというチーム事情がありました。早稲田大の早川(隆久・楽天1位)がとても注目されていたのですが、私は「すぐに試合で使えるのは栗林です」と推しました。東海地区では髙橋宏斗(中京大中京高・中日1位)も注目されていましたし、当然私も気にしていました。ですが、チーム事情を考えると即戦力の栗林を推したかったですし、中日はおそらく髙橋を指名するだろうという読みでした。他球団の動向を考えると栗林を単独指名ができるという思いはありました。

 結果的に1位で単独指名ができた瞬間は『万歳!』という感じでした。

 指名後、初めて栗林と話をしたわけですが、とてもしっかりしていて、言葉も丁寧で、周囲から聞いていた通りの印象でした。 プロ入り後、先発として起用されることをイメージしていました。ですが、当時ストッパー候補の投手の調子が思わしくなく、佐々岡真司監督に「マツ、栗林は抑えもできるのか?」と聞かれることがありました。「1年目の秋に社会人日本代表に招集されて、その時に抑えをやって結果を出しています」と伝えました。その発言で決まったわけではないと思いますが、私としては栗林の実力であればストッパーでも心配はないと思っていました。1年目はみなさんご存知の通りの大活躍でした。

 栗林は大学時代にドラフトで指名漏れを経験しています。普通は落ち込むと思いますし、そういう選手も見てきました。ですが、彼はそこから1位指名でのプロ入りをつかみ取りました。そう考えるとすごく強さを持った選手だと思います。

松本 有史●まつもと ともふみ
1977年5月1日生、広島県出身。
崇徳高-亜細亜大-広島(1999年ドラフト7位〜2005年引退)。高校時代は広島・崇徳高でプレーし、亜細亜大に進学。大学時代はベストナインを二度受賞。その後、地元のカープに入団すると、長打力が魅力の大型内野手として活躍した。
2005年限りで現役を引退。翌2006年からスカウトに転身。主に東海地区、母校の亜細亜大を担当し、これまで堂林翔太、菊池涼介、九里亜蓮、野間峻祥など、近年主力として活躍する選手たちの獲得に尽力している。

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