今年の夏、広島で注目を集めた1年生ピッチャーがいた。広陵高校・髙尾響投手。入学からわずか3ヵ月でやってきた夏の選手権広島大会で伝統校のエースナンバー“1番”を背負い甲子園を目指した。

今秋の県大会で名門・広陵の背番号1を背負った高尾投手。

 優勝候補に挙げられていたチームはまさかの3回戦敗退だったものの、1年生ながらMAX145キロの直球を武器にする髙尾投手の投球は将来を楽しみにさせてくれるものだった。

 今秋の県大会でも背番号1を付けマウンドに上がった髙尾投手。決勝戦でエースの力を発揮した場面があった。相手はともに広島の高校野球をけん引する名門・広島商業。

 4-3と広陵が1点リードで迎えた8回表、広島商業の攻撃だった。1アウト2、3塁と一打同点、さらには逆転のピンチ。広陵の左腕・倉重投手が2ボール2ストライクと相手打者を追い込んでいる状況で広陵・中井哲之監督は、この試合ベンチに控えていたエース髙尾投手をマウンドに送った。

 カウント途中で髙尾投手にスイッチした理由について、試合後、中井監督は「三振を取ってほしいと思った」とその意図を明かした。結果として三振は取れなかったが、高尾投手は内野ゴロ2つでこのピンチをしのぎ、広陵が4年ぶりに秋の広島を制した。

 実は髙尾投手、前日の準決勝、広島新庄戦に先発し6回途中5失点と本来の力を出すことができていなかった。それでも決勝戦の重要な局面で登板させた中井監督。以前、髙尾投手について伺った時には、「彼は度胸が良い。気持ちが入っている」とメンタル面を評価していた。髙尾投手も自身の性格について「負けず嫌いが長所」と負けん気の強さをのぞかせる。

 県内屈指の好投手は他校の同学年投手にも影響を与えている。秋の県大会でベスト4に入り、創部43年目で初めて中国大会出場を決めた県立神辺旭高校の1年生エース・冨原朔投手は、「広陵の髙尾くんは同学年だけど凄すぎる。自分も負けないように良い投球をしたい」とMAX136キロの直球を主体にした投球のレベルアップを誓う。

 広島新庄の1年生ピッチャー・石津慶大投手は、準決勝で髙尾投手とともに先発として投げ合った。「広陵の高尾くんにはライバル意識を持っている。1年生なのに堂々としている。負けないようにこれからも練習していきたい」と闘志を燃やす。

 広島の高校野球界で存在感を放ち始めた広陵のエース・髙尾響投手。1人の本格派右腕の出現に同い年の投手たちは奮い立つ。それぞれのピッチャーは、中国大会でどのような投球を見せるのか。好敵手の存在が戦いをさらに激化させるだろう。