来季からカープの指揮をとることになった新井監督とって、駒澤大の先輩でもある野村謙二郎氏。プロ入り時の大きなきっかけにもなった“恩師”は、誰よりも長く、“新井貴浩”という人間を見守ってきた。

 ここでは、新井監督との出会いから現役時代の思い出、さらに、その人間性について改めて語った独占インタビューをお送りする。

野村氏2000安打達成の記念写真に収まる新井(前列右から2番目)

すごく優しい人間で、厳しさも持ち合わせている

─野村さんから見た新井監督の野球人生とはどのように感じておられますか?

「彼がFAでカープを出て行った時、まさか〝新井がカープを離れる”ということは思ってもいなかったので、すごく残念だった気持ちもありました。ただFAというのは自分の権利ですし、私には分からないいろんな思いがあったのでしょう。私も少しずつ考えて、『これは本人が決めることなので仕方のないことだ』と思うようになりました。2015年にカープに復帰した時もうれしかったと思いますが、おそらくモヤモヤしている感覚で、『戻ってこい』と声がかかったんだと思います。当時、黒田(博樹)がFAで出ていくのと、新井が出ていくのは両極端な捉え方をされているイメージがありました。黒田は『海外に行って頑張ってこいよ!』、『最後はカープに帰ってきてくれよ!』という雰囲気でしたが、新井は『なんでカープを出て行くんだ』という感じがありました。それだけに復帰できると思っていなかったでしょう。復帰当時キャンプを見ていて『大丈夫か? 始まる前に体が壊れるぞ』というくらい練習していた姿が印象的でした。相当な覚悟があり、壊れてもいいという気持ちでやっていたんだと思います。それで壊れずやりきって、一軍のベンチに入りました。カープのユニホームで、マツダスタジアムの打席に初めて入ったときに、新井自身もヤジられるんじゃないかと思っていたと思いますが、すごい拍手と声援を贈ってもらったシーンがありました。ここで彼はモヤモヤが消えた瞬間だったのではないかと思います。私はあの試合、解説で入っていたのですが、ジーンときましたし『新井はうれしいだろうな』と感じました。あんなに拍手をもらって、『カープのために、俺のやるべきことは決まった』と、溜まっていたものが吹っ切れた瞬間だったのではないかと思いました」

─長く接してこられた新井監督の人間性をどのように感じておられますか?

「すごく良い人間だと思いますし、とても優しいのですが、芯はしっかりしています。厳しければ良いというものではないのですが、厳しさも持ち合わせていると思うので、すごく期待していますね」

─新井監督は選手時代に、野手キャプテンや選手会長などを経験されています。リーダーシップについて野村さんの目にどのように映っていますか?

「リーダーシップというのはやはり自分がゲームに出て、成績が出て、発言や行動が変わってくるんだと思うんです。それだけタイトルも取って、2000本安打も打って、数多くゲームを経験していたというのは、やはり自分が周りから認められていることを感じられると思います。例えば『俺は新井だぞ』と思っているわけではないんですが、自然と出ているものです。本人に聞いても『僕はリーダーシップを取っていたわけではないです』と言うと思いますが、それは本音だとも思います。技術的にもメンタル的にもそうですし、周りが認めているからこそ主力なんです。周りの見方というのも分かりますし、チームのトップに立つわけですから、そういうところは備え持っていると思います」

─新井監督はチームメート、ファンから愛される方ですが、その理由はどこにあると思いますか?

「さらっと野球をするのではなく、自分の打ったときの喜びや、打てなかったときの悔しさをに出せるということですよね。チャンスで打ってくれる、サヨナラヒットを打ったとき子どものように喜ぶ、ピッチャーに激励に行く姿、優勝して黒田と泣きながら抱き合う姿などは、ファンの方も何度も見ていると思いますし、やはり人間の表現、“喜怒哀楽”の表現がすごく上手だから人気があるのではないかと思いますね。気持ちを出せるということはすごく大事なことだと思います」

─新井監督はコーチ経験がない中での監督就任となります。球団では野村さん以来となります。

「僕は逆に関係ないと思いますし、全く心配していません。そのために引退後に外から野球を見て、他球団のことも勉強していたと思います。どんな選手も自分のやりたい野球というものがありますし、自分だったらこういう野球を教えたい、こういう風に打ってもらいたい、こういう風に投げてもらいたいなど、みんなが思っていることですからね」

─監督就任に当たって、新井監督から野村さんにご連絡はあったのでしょうか?

「ありました。『監督のオファーがあって、受けさせていただくことになりましたので、連絡をさせてもらいました』ということだったので、『そうか、そりゃ頑張ってやるしかない、頑張れよ』ということと、『とにかく思い切ってやらないと。お前だったら大丈夫だから』と短い会話だったんですけど話しましたね」

─先日の新井監督就任会見の様子をご覧になってどのような印象でしょうか。

「テレビで見ましたが、やはりあれくらいしゃべってくれて、面白いこともあったようなので、メディアやファンの方々も良かったと思います。メディアの方たちとうまい関係でというのも監督の大事な仕事だと思うので、素のままの新井で頑張ってくれたら良いのではないかなと思います」

─それでは最後に新井監督にどんな野球を期待されたいかお伺いしてよろしいでしょうか。

「とにかく、カープファンが熱狂するような、選手が新井のように喜怒哀楽が出せて、共に喜び、共に歓喜し、共に悔しがり、そういうことをみんなで共有できるようなチームにしてほしいと思います」

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