◆怖れることなく変化すること

 だから若手とベテランは同じではない。誰でも仕事に就いて最初の数年は、「何やってんだよ!」と怒られ、失敗も許されて、業務を覚えていく時期がある。その時期を終えた後は、自分の居場所を守っていかなければならない。たとえば「この仕事はこの人にしかできない」というものを身につけていくことも必要だろう。それができなければ次第にその人に仕事は与えられなくなる。それは残酷なまでにはっきり表れるものだ。

 そんなベテランに必要なのが“変わっていく”という姿勢だ。たとえばケガをして以前と同じプレーができなくなったとき、選手はその事実を受け入れ、マイナーチェンジしていかなければいけない。僕自身もそうだった。僕はデビュー当時、足が自慢の選手だった。けれど肉離れを起こして走れなくなった。

 そのとき、じゃあ自分はどう変わっていけばいいのかを真剣に考えた。走れなくなった、内野安打が減る、そうなると打率が落ちる、だとしたら塁間を抜くヒットを増やすしかない……そんなふうに頭ではわかるのだが、自分がそれまで守り続けたスタイルを変えることはなかなか難しい。でも変えないとジリ貧の結末が待っている。僕はその葛藤をくぐり抜けた先に進化した自分が待っていると考えた。

 そういう意味でわかりやすいのはピッチャーだ。たとえば僕が現役時代に親しかった佐々岡真司は若い頃は150キロのストレートを投げていたが、球威が落ちてからはカーブやツーシームを覚えたり、コントロールに磨きをかけたりと技巧派に転向した。肉体の衰えを、新たな技術を身につけることや、打者との心理戦で優位に立つことでカバーできたからこそ、彼はあれだけ長く現役でプレーすることができたのだ。

 つまり、生き残るためには夢を見続けてはダメなのだ。良いときのイメージを持ちすぎていると必ず痛い目に遭う。僕もいつまでも3割30本の気持ちを引きずっていたら、もっと早く引退に追い込まれていただろう。

 怖れることなく変化すること―僕がベテラン選手に伝えたいのは、何よりもそのことの重要性である。

●野村謙二郎 のむらけんじろう
1966年9月19日生、大分県出身。88年ドラフト1位でカープに入団。プロ2年目にショートの定位置を奪い盗塁王を獲得。翌91年は初の3割をマークし、2年連続盗塁王に輝くなどリーグ優勝に大きく貢献した。95年には打率.315、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2000安打を達成した05年限りで引退。10年にカープの一軍監督に就任し、積極的に若手を起用13年にはチームを初のクライマックス・シリーズに導いた。14年限りで監督を退任。現在はプロ野球解説者として活躍中。