2010年から5年間カープを率い、25年ぶりの優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督。この特集では監督を退任した直後に出版された野村氏初の著書『変わるしかなかった』を順次掲載し、その苦闘の日々を改めて振り返る。
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 2014年を前にいくつかの出来事が起こった。まず大竹(寛)がFAで巨人に移籍した。正直、大竹が出ていくことは頭になかった。ただ、彼も家族の問題などあるだろうし、FAというのは選手が獲得した立派な権利だ。それはそれで受け入れなければいけない。

 その一方で2013年秋のドラフトは素晴らしい結果となった。僕はオーナーに「今年はクジは辞退させてください」と事前に伝えていた。ドラフト1位で指名した九州共立大の大瀬良大地はカープ、阪神、ヤクルトの競合の末、担当スカウトの田村恵が見事に当たりクジを引き当ててくれた。

 大地は(今村)猛と同様に、田村スカウトが高校時代から追いかけてきた今ドラフトの目玉であり逸材だった。そして2位で、亜細亜大の即戦力右腕・九里(亜蓮)も獲得できたことで大竹の穴を埋められる可能性が高まった。

 大地は獲得したときから先発ローテーションに入れることを決めていた。1年間どんなことがあっても二軍に落とさず、必ずローテーションを守らせる。2012年の堂林(翔太)同様すべては投資のつもりだった。

 そして彼には絶対に新人王を獲らせたいと思っていた。実際、彼はルーキーイヤーであるこの年、10勝をあげて新人王を獲得する。特に1年間きちんとローテーションを守った自信はこれから必ず生きてくるだろう。

 チームの方針としては前年からそれほど変わったわけではない。引き続き「状態の良い選手を使う」ということを徹底するため、キャンプ初日に「誰にでもチャンスはある。月並みな言葉だが俺は絶対にそれを守る」ということを選手の前で宣言した。あとはとにかく巨人を叩くということ。そこを意識的に越えなければ、チームはこれ以上、上にいくことはできないと感じていた。

 優勝を目指すということは、CSを経験したことであえて口にすることでもなくなった。3位ではもう誰も満足しない。それは僕も選手もわかっていた。やはりCSを経験したことで、選手たちの思考は大きく変化したのだ。