カープが初優勝した1975年、ライバルチームを震撼させたのが盗塁や右打ち、さらに積極的な走塁を駆使した「機動力野球」だ。大下剛史、高橋慶彦、山崎隆造、今井譲二、正田耕三など、チームの先陣を切る韋駄天たちも、数多く登場した。

 カープのお家芸とも言える機動力野球だが、2022年のチーム盗塁数のみに注目するとわずか26個。これはリーグワーストの数字である。2023年、チーム浮上の鍵の一つに『機動力野球の復活』を上げるのは、多くの人が考えることだろう。

 ここでは、機動力野球復活を掲げカープのコーチも務めていた、岡義明氏の2004年当時のインタビューから、2023年度版『機動力野球復活』へのヒントを探る。(広島アスリートマガジン2004年10月号)

2023年の日南キャンプでは徹底した走塁練習も行われた

◆『機動力野球は、常に実行して相手に「足を使ってくるぞ」と意識させることで、効果が複合的に広がっていく』

 私が入団して4年目の1975年から、カープではジョー・ルーツ、古葉竹識両監督のもとで盗塁やヒットエンドランといった積極的な走塁、またランナーを進めるための右打ちなど「機動力野球」を推し進めてきました。

 「機動力野球」を掲げる目的というのは、一口に「これ」と言えるものは正直ありません。ルーツ監督が機動力野球を打ち出した背景には、74年まではチーム打率2割5分未満と上位を目指すには打線がやや弱かったので、それをカバーするために、積極的に一つでも先の塁を獲得して得点の確率を上げようと考えたという説があります。

 そのため山本浩二さんや衣笠祥雄さんなど、主力選手全員が積極的に足を使っていきました。

 カープがこの「機動力野球」を毎試合実行し続けた事で、当然相手チームは機動力を警戒してきました。しかしこのように機動力野球を意識させることにより、新たなメリットがたくさん生まれてきたのです。

 相手守備陣は足技を意識し過ぎてエラーが出やすくなりました。投手もコントロールを乱してしまい四死球やバッテリーエラーが出たり、失投で打ちやすいボールを投げたりしました。

 さらにバッテリーは盗塁されないためにストレート系の投球が多くなるので、打者にとっては狙い球が絞りやすくなります。このように様々な条件が複合的、立体的に広がり、得点力がどんどんアップしていくというのが、機動力野球の最大のメリットなのです。