天谷宗一郎は当時(2004年)の機動力野球のキーマンの一人だった。

 我々ファームのコーチは、「カープ野球」を提唱して木下富雄二軍監督(当時)のもとで徹底して走らせて、ゲームの中で走る意欲を持たせながら、選手に機動力の重要性を浸透させています。

 全盛期と同様に、現在も若手には足の速い選手は数多くいます。後半戦から一軍に昇格した尾形佳紀、一軍でも実績のある福地寿樹、東出輝裕、岡上和典ももちろんそうですが、5年目までの若手選手にも有望株がいます。

 8月に初の一軍を経験した3年目の天谷宗一郎。昨年一軍を経験、故障から復帰した5年目の末永真史。そして2年目でウエスタンでのスタメン出場を続ける松本高明。彼ら俊足が持ち味の選手達がファームで鍛錬に励んでいるのです。

 チームナンバーワンのスピードを持つ天谷は、積極的の上を行く「超積極的」なタイプです。頼もしい時もあるのですが、たまに「好走」というより「暴走」になる場面もあるので、その見極めが一軍定着への課題です。

 離塁する際の足運び、スライディングの距離感、投手のモーションを盗んだり配球を読んだりといった駆け引きも現在勉強中です。経験を積めば、将来が楽しみな選手です。

 末永はスピードでは天谷ほどではありませんが、盗塁や打球判断におけるスタートが素晴らしく走塁センスに優れています。ただ積極的な部分と消極的な部分が極端な面があり、盗塁のサインが出ていたのに、相手投手がクイックだとスタートをやめてしまったりする事があります。

 これは技術向上の妨げになる部分があるので、ベンチから「盗塁するな」のサインが出ない限りは積極的に走る姿勢を見せて欲しいですね。あとはケガに強くなればと思っています。

 松本高明は打撃や守備では特別目立つわけではありませんが、脚力や走塁勘は天谷、末永に劣らない非常に高い才能を持っています。こんな選手をよく見つけたな、と思います。

 ただプロのピッチャーがクイックで投げると一瞬「あっ」という戸惑いの間が生まれ、それでスタートがうまく切れない事があります。ただこれは技術的な事なので、日々の練習と実戦経験でクリアできるはずです。

 彼ら3人が仮に一軍で3割近くを打ってレギュラーになったと仮定した場合、1シーズンで恐らく40盗塁はできるようになっているだろうと思います。もちろん塁に出ない限りその自慢の俊足を生かすことはできません。

 赤ヘル黄金時代に活躍した高橋慶彦や山崎隆造は、いずれも打率3割近くをマークして出塁率も高かったのです。従ってまずは打撃を鍛えること。さらに並行して走塁面も磨いていく。どちらかだけに重点を置くというわけにはいきません。

第2回へ続く……

●岡 義朗/おか よしあき

1953年11月22日生。岡山県出身。岡山東商高から内野手として1972年ドラフト5位でカープに入団。76年から代走や外野守備固めとして一軍に定着し、79年には97試合に出場し初の日本一に貢献。80年から南海(現福岡ダイエー)に移籍し、81年には2本塁打するなどスタメンでも活躍。84年に阪神に移籍し85年引退。引退後はカープをはじめ阪神、年オリックスでコーチを務めた。

広島アスリートマガジン3月号は、WBC特集!『照準は世界一。栗林良吏、いざWBCへ!』。日本代表の一員としてWBCに出場する栗林選手インタビューをはじめ、世界の強豪国と戦ってきた石原慶幸コーチ、川﨑宗則選手のインタビューにもご注目ください!