2年前の4月。九州・熊本から広陵高に入学した少年がいた。今や不動の1番打者としてチームをけん引する2年生の田上夏衣選手だ。数ある高校の中から広島の広陵高を選んだきっかけはお父さんのひと言だった。

広陵のリードオフマンとして打線を引っ張る、田上夏衣選手。

 「中学生の時にお父さんがYouTubeで中井先生の特集を見ていて、野球の練習帰りにクルマの中で広陵はどう? と言われたひと言が広陵を調べるきっかけでした」

 リサーチを進めるにつれて中井哲之監督率いる広陵でプレーしたい思いは増していき進学を決意。親元を離れ広島で高校生活をスタートさせた。

 県内外から多くの球児が集う広陵高校野球部。中井監督は、「現代風じゃないんですけどね」と笑いながら自身の指導に関する考えを口にした。

 「昭和的で令和的なところもあるのかなと。野球は失敗するスポーツなので失敗しても全然怒りもしなければ気にもしない。仕方ないですよ、トンネルなんかプロでもするんだから。ただ、ミスをした後の練習態度とか生活態度は見ます」

 ミスに気落ちしてしまい、知らず知らずのうちに行動に影響が出ることもある。選手の変化を見逃さず、的確な助言を与えることが信頼関係を強固なものにする要因なのかもしれない。

 「野球を通じて野球以外の部分も成長する。大好きな野球で人間が成長しつつ夢の舞台に立てる。これが本来の姿だと思って高校野球の指導に携わっています」

 野球の技術だけではない。人としてどうあるべきか教えてもらえる。だからこそ卒業生を含め多くの生徒が中井監督を慕うのではないだろうか。広島に来て約2年。田上選手が中井監督に抱くイメージは入学前と変わっていないという。

 「YouTubeで見たまま、まさにあの通りです。礼儀はもちろんですけど、感謝の気持ちを伝えることを学びました」

 中学生の時は1つひとつの出来事に対して「ありがとう」と言えなかったが、今では些細なことでも感謝の気持ちを伝えられるようになったという。

 試合では広陵のリードオフマンとして打線を引っ張る田上選手。中井監督は田上選手を1番に置く理由について、「出塁率が高くバットコントロールも良くて足も速い。1番でありながら長打も打てますから」といくつも長所をあげた。田上選手も「自分が出塁することでチームに勢いが出てくると思うのでそこは一番大事にしている」と塁に出ることを意識している。

 2年連続でのセンバツ出場となった広陵高。今大会は優勝候補の一角としても注目を集めている。2003年以来20年ぶりとなる春の頂点へ。田上選手は広陵高で鍛えあげたハートとスキルを携えて戦いに挑む。

 「去年は2回戦で負けている。今年は日本一しか見ていない。がむしゃらに、応援に来てくださっている方々に感謝の気持ちを忘れずに恩返ししたい」

 “ありがとう”は勝って伝えるつもりだ。

【略歴】
田上夏衣(たのうえ・かい) 2005年7月12日生まれ 熊本県出身。
山鹿中学校時代は熊本北部リトルシニアに所属。50メートル走6.0秒、遠投100メートル。目標とする選手はカープの西川龍馬選手。名前の由来は、夏生まれで、衣で包み込むように温かい人になってほしいという思いが込められている。趣味は音楽を聴くこと。好きなアーティストはMr.Children。173センチ/72キロ/右投左打