天才的なバットコントロールと、勝負強い打撃で2023年もカープの中軸打者として活躍を続ける西川龍馬。2015年ドラフト5位で入団すると、翌年から外野手として一軍出場。プロ8年目を迎える今では、チームにはなくてはならない存在となっている。

 プロ通算打率は.299(4月24日時点)と、さすがの一言。ここまでの逸材に出会ったカープ松本有史スカウトに、当時を振り返ってもらい西川獲得までの秘話をお届けする(2022年10月掲載記事を再編集)。

◆視察の度に打つ西川に感じた、不思議な縁とタイミング

2022年9月、球団施設で独占インタビューに応じる松本有史(ともふみ)スカウト。

 私が(西川)龍馬の存在を初めて知ったきっかけは、北信越担当の高山(健一スカウト)さんが敦賀気比高時代の龍馬を見ていたことです。彼が社会人野球の王子に入社した後に、高山さんから「見ておいてあげて」と言われて存在を知ったので、高校時代から見ていたわけではありませんでした。ちなみに私が王子というチームを見ていたのも、かつてカープでプレーしていた川口(盛外・2009年ドラフト6位)という選手が退団後に王子に復帰していたからです。そういった人脈もあって、王子を訪れる機会があったのですが、そう考えると龍馬を見ることになったのも “縁” ですよね。

 初めて龍馬を見たときは『体の線が細いな』という印象で、高卒だけに体もまだまだだなと感じていました。本格的にプレーを見たのは社会人2年目からでしたが、当時の評価は “平均的な選手” でした。ただ、当時から非常にバットコントロールが柔らかくて、前田智徳さん(元カープ)のバットスイングに似ているなという印象を持っていました。

 社会人3年目がドラフト候補解禁のシーズンになるわけですが、当時は1位指名候補の選手に比べると、龍馬の視察に行ける回数はどうしても少なくなってしまいます。しかし、私が龍馬の視察に行く度に良い当たりのヒットやホームランを打っていたんです。ですので、毎回良い資料映像が撮れていました。王子の関係者の方々にも「松本さんが来ると打ちますね」と言われるくらいでした。

王子 硬式野球部時代の西川龍馬。入社1年目から公式戦に出場し、カープスカウトの目を引いた。

 スカウト活動の中で撮影した動画は、スカウト会議時に見ていただくものとなるので、指名に至るまでにこの資料動画がとても重要になります。1位候補であれば、そのチームにも選手にも誠意を見せるために、訪れる回数は多くなります。しかし、下位指名の選手となると、こちらは『探す』というイメージでの視察になるので、たまにしか行けないという事情もあります。 “たまに行く視察” の度に龍馬は打つわけですから、私も面白い存在だと思っていました。

 やはり、スカウト活動を行う中で、そのような “縁” というものは非常に大事だと思っています。良い打者であっても打って打率3割ですし、7割は失敗します。それだけに、視察する回数が多くないと普通は良い映像を撮影することはできません。なので、少ない視察の度に打つ龍馬に対しては “この選手には何かがあるな” と感じていましたし、私にとって龍馬は3割以上の打者だったわけです。

 入団後の龍馬とドラフトの話題を話していると、「カープに指名されるとは思っていませんでした」と言っていました。おそらく、彼を見ていた球団はあまりおらず、ほぼノーマークに近い選手だったのかもしれませんね。

 彼の活躍はうれしいですし、見ていて楽しいですよ。彼にいつも言っているのですが、首位打者など、何かしらタイトルを早く獲得してほしいですね。

松本 有史●まつもと ともふみ
1977年5月1日生、広島県出身。
崇徳高-亜細亜大-広島(1999年ドラフト7位〜2005年引退)。高校時代は広島・崇徳高でプレーし、亜細亜大に進学。大学時代はベストナインを二度受賞。その後、地元のカープに入団すると、長打力が魅力の大型内野手として活躍した。
2005年限りで現役を引退。翌2006年からスカウトに転身。主に東海地区、母校の亜細亜大を担当し、これまで堂林翔太、菊池涼介、九里亜蓮、野間峻祥など、近年主力として活躍する選手たちの獲得に尽力している。

広島アスリートマガジン5月号は、「まだ見たい!もっと見たい!」勝利を知る経験者たちの魅力をお届け!カープ3連覇を支えた投打の主力たちの現在地に迫ります。