カープの守護右腕・栗林良吏。実は彼が本格的に投手を始めたのは実は大学入学以降。今年は未だ本来の力を発揮できてはいないが、その能力は誰もが知るところだろう。栗林をよく知るキーマンに取材を重ね、栗林の真実に迫っていく。

 今回取り上げるのは、元プロ野球選手で、現在はトヨタ自動車に在籍する細山田武史。プロを経験した捕手の助言が、栗林良吏の投球に大きな影響を与えていた(2022年1月掲載記事を再編集。※取材は2021年9月上旬)

栗林良吏投手の代名詞でもあるフォークは、トヨタ自動車時代に進化を遂げた。

◆落ちる球が加われば手がつけられない投手になる

 まだ栗林が名城大の学生だった時、実はオープン戦で対戦したことがあり、その時から球が速い投手というのは知っていました。

 トヨタ自動車に入った時は、スライダーを得意球にしていました。ただ捕手として実際に受けてみると、良い球なんだけど物足りない。対戦した打者に聞いても「このスライダーなら打ちやすい」という声が多かった。栗林にとってのスライダーはストライクが取れて投げやすい球でしたが、打者にとっては、ストレートのタイミングで待っていれば合わせやすい変化球だったんです。

 栗林の球を見ると、縦回転の変化球が得意だと思ったので、スライダーをいつでも投げることができるのであれば、カーブを覚えてみないかと、他の捕手の意見も聞いたうえでアドバイスしました。投手が自信を持って投げる球が、打者を抑えられる球ではありません。その提案を栗林は素直に受け入れてカーブの習得に励んでいました。

 ちなみに、栗林の代名詞となっているフォークですが、社会人1年目は試合では使えないほど危ない球でした。低めに投げているけど落ちない。本人もフォークには全く自信がなかったと思いますね。ただ、栗林はストレート、カーブ、カットボールが主な球種だったので、ここに落ちる球が加われば手がつけられない投手になるだろうと思っていました。

 なので僕がマスクをかぶる時は、意識を変えるためにストライクゾーンの中にフォークを投げさせていましたし、あえて多投させる時もありました。本人の努力もあり、試合で使えるフォークを身につけた時は、間違いなくドラフト1位で指名されるなと思いましたね。

 トヨタ自動車では、チーム事情もあり先発をやっていましたが、栗林本人は後ろで投げてみたいということを言っていました。僕自身も『球が速い、三振が奪える、四球を出さない』、これらの栗林の投手としての能力を考えると、クローザーに向いているとは思っていました。

 カープ、そして日本代表での活躍は本当にすごいと思って見ています。トヨタのチームメートも栗林が活躍すると喜んでいますし、こちらも負けずに頑張ろうという気持ちになります。いろんな人が彼のことを応援しています。それは栗林が周りに対して感謝の心を忘れずに、何事にも一生懸命に全力で取り組んでいるからこそ。

 五輪の試合を見ていて感じたことがあります。あれだけの大舞台で最後まで役目を全うするには、本人の実力に加えて運も必要です。いろんな方が栗林を支えていて、そのことに栗林も感謝の気持ちを忘れていないからこそ、運も巡ってくるのだろうと感じました。実際、目に見えて疲れていましたし、甘い球も多かった。それなのに終わってみればあの成績ですからたいしたもんです。

 『栗林ならなんとかしてくれる』、誰しもがそう信頼する投手はなかなかいませんから、そういう投手に育っていってほしいですね。あとはとにかく、ケガをせず長く活躍してほしい。プロ野球以外のスポーツでも言えることですが、ケガをしないことは、どんな武器にも勝る強みです。ケガに強いことも一流選手の条件の一つだと思ので、現状に満足せず、フィジカルを鍛えていってほしいですね。

 栗林のことなので、僕が言わなくても、きっと自覚していると思います。自分に必要なことは貪欲に吸収する選手ですから。

 

◆プロフィール
細山田武史(ほそやまだ たけし)
トヨタ自動車硬式野球部・コーチ兼捕手
1986年4月29日生・鹿児島県出身。2008年ドラフト4位で横浜(現在のDeNA)に入団。プロ7年間で捕手として203試合に出場した。2015年11月にトヨタ自動車硬式野球部に加入。2016年には都市対抗野球大会初優勝に大きく貢献した。2021年からはコーチ兼捕手としてチームを支えている。