“覇気”を代名詞に、15年間カープでプレーした安部友裕。25年ぶりのリーグ優勝、さらに球団史上初の3連覇に大きく貢献し、2022年限りで現役を引退した。

 安部氏が現役時代を語る本連載。今回は25年ぶりのリーグ優勝などについてを振り返る。

2017年9月5日の阪神戦(マツダスタジアム)でサヨナラ本塁打を放ち、本塁に帰還する安部友裕(写真右)。マジック12が再点灯した重要な一戦をものにし、手荒い祝福を受けた。

◆ドラマ以上の現実がそこにはあった

 今回は、僕の野球人生でも幸せな経験をさせていただくことになった、2016年のカープ25年ぶりとなるリーグ優勝をメインにお話しさせていただきます。

 2016年シーズンを振り返ると、本当にさまざまなことがありました。黒田博樹さんの200勝や、新井貴浩さん(現監督)の2000安打、300本塁打の達成、そして鈴木誠也(現カブス)の3試合連続決勝ホームランなど……ファンのみなさんにとっても異常と感じるくらいの出来事がありましたよね。

 この年、僕は前半戦で4番を打っていたルナの代わりに試合後半から守備交代でサードで出場する機会が増えていました。当時のチームは組織的にも素晴らしく、高いチーム力がありました。2015年のシーズンオフに(石井)琢朗さん(当時カープ一軍打撃コーチ)からの、熱心な指導をいただいた影響や、雰囲気の良いチームの中で戦うことも相まって、僕自身も野球に対する意識が変わっていったように感じています。それまでは、「何で一軍に上がれないんだろう」「何で僕だけこんなことを言われるんだろう」といったネガティブ思考になっていたのですが、意識が変わることで、「ここで打ったら俺はヒーローだ」「俺が捌いてやる」などメンタル的にギラギラしていて、その気持ちがプレーにも表れていたのだと思います。

 カープの優勝マジックは8月24日に点灯します。僕はというと、本当に目の前の試合に夢中でした。そして運命の9月10日の巨人戦(東京ドーム)を迎えます。

 この日、マウンドに上がったのは、黒田さん。まさにドラマのような1日が始まりました。僕は7番・サードでスタメン出場し、チームは初回に巨人の坂本(勇人)選手に2ランホームランを撃たれ先制を許します。その後、3回の表、僕と同学年の田中(広輔)が四球で出塁し、同じく同学年のキク(菊池涼介)が痛烈なショートゴロで相手のエラーを誘いその間に一塁ランナーの田中がホームまで走り見事1点を返しました。

 『何としてでも前に球を転がし、1点を取りにいく。前に転ばせることができれば、必ずチャンスがある』という、この年のチーム力を感じる場面でもありました。

 その後4回に、誠也、マツ(松山竜平)さんがソロホームランを放ち逆転に成功し、僕の打順が回ってきます。巨人の投手はマイコラス。僕はここで死球を受けたのですが、その時、ベンチのチームメートや、黒田さん、新井さん、高(信二)ヘッドコーチなどが、闘志を見せてくれた姿には胸が熱くなりました。『絶対に俺も次の塁を狙ってやる』と心の中で思っていたことを今でも鮮明に覚えています。

 そして、6対4で迎えた9回裏。サードの守備についた瞬間、「俺、もうすぐ優勝するんだ。ここに立ってるんだ……」とさまざまな思いが頭をよぎりました。最後はショートゴロで25年ぶりとなるリーグ優勝が決まりました。下積み時代の長かった僕が“クビ”を覚悟してから1年後に、自分はこんなに素晴らしい場所にいるんだと感じると、とても感慨深いものがありました。

 そして、人生初のビールかけでは、『大の大人が、こんなにも無心で楽しめることがあるんだ』と思いましたね。ビールがなくなるのは本当に一瞬で「ビールないです! 終わりです!」という感じです(笑)。そのあとは各メディアのインタビューに出演させていただき、とても充実した時間を過ごせました。今思い返しても、ドラマ以上の現実が本当にあったんだと感じています。

 そして、翌2017年は僕にとってキャリアハイの成績を残す1年となります。この時期は、どんなに速い球を投げる投手が相手でも「真っ直ぐは絶対に打てる」という自信がありました。2017年から2019年までの3年間、僕は開幕スタメンで使っていただくことになるのですが、チームとして、“開幕は安部で戦おう”と決めていただけたことは、“クビ”を覚悟した僕からしたら、本当にうれしいことでした。

 この年は、9月18日の甲子園球場でカープの優勝が決まります。初の規定打席に到達し、チームトップの打率.310という記録を残すことができ、プロ野球人生の中でも、絶好調の時期だったと言えるでしょう。

後編につづく

◆安部友裕(あべ ともひろ)
1989年6月24日生、福岡県出身、33歳。2007年に高校生ドラフト1位でカープに入団。一軍定着までに苦戦したものの、プロ9年目となる2016年に115試合に出場し、25年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献。翌年2017年には初の規定打席に到達して打率3割を記録。リーグ3連覇に主力として貢献した。2022年限りで現役を引退。通算成績は700試合、打率.264 443安打 25本塁打 160打点 49盗塁。

広島アスリートマガジン5月号は、「まだ見たい!もっと見たい!」勝利を知る経験者たちの魅力をお届け!カープ3連覇を支えた投打の主力たちの現在地に迫ります。