2種類のカットボールを駆使するカープのエース・大瀬良大地投手。

バットの芯を外す2種類のカットボール

大瀬良大地選手といえば『カットボール』を自在に操ることで有名です。好青年のイメージからストレートで真っ向勝負する印象がありますが、『縦カット』と『横カット』、2種類のカットボールを投げ分ける非常に器用な選手です。

カットボールの正式名称は『カット・ファストボール』。ストレートとほとんど変わらない球速でありながら、打者の手元で鋭く変化するのが特徴で、現在の日本プロ野球で主流となっているボールの一つです。

カットボールはジャイロ回転をするため、僕自身はジャイロボールと呼んでいます。ジャイロ回転するボールは空気抵抗が少なく、初速と終速の差が小さくなるのが特徴です。終速のスピードが落ちないということは、打者は差し込まれるケースが増えます。

ボールの握り方自体はストレートと変わりません。リリースする時にジャイロ回転をかけることができるかがポイントになります。ちなみに、カットボールの回転は、アメフトボールを投げたときの回転と非常によく似ています。なので、僕がトレーニングやYouTubeなどでカットボールを取り上げるときは、アメフトボールを使って説明をしています。ジャイロ回転のボールを投げたい場合は、まずはアメフトボールできれいな回転がかかったボールを投げられるようにするのが一番の近道です。

余談ですが、メジャーリーグの選手がカットボールをよく投げているのは、子どもの頃からフットボールと接する機会が多く、アメフトボールを投げる機会が多いからです。

大瀬良大地選手が投げ分けている『縦カット』と『横カット』、これはジャイロ回転の軸がどこを向くかで変化が変わっているという仕掛けで、どちらもジャイロ回転のボールとなります。スローモーションで見るとよく分かりますが、本当にきれいなジャイロ回転をしています。

また、大瀬良大地選手のカットボールは変化量が少ないのも特徴です。変化量を少なくすることで、カットボールの球速がストレートの球速に近づき、より打者の近くでボールが曲がります。

打者の立場に立ってみると、これは非常に厄介です。ストレートとカットボールの判別がつきづらいうえに、仮にカットボールに狙いを絞っていても、そこからさらに『縦』と『横』の選択肢がある。その選別だけでも大変ですが、大瀬良大地選手の場合、速いストレートとカットボールに加えて、スライダー、カーブ、フォークといった変化球があり、さらに今シーズンからはシュートを投げています。

横カットとスライダー、縦カットとフォークといったように、同じ方向に変化の違うボールを投げ分けることができているので、打者は狙い球をしぼることが容易ではありません。たたでさえ強力な『縦カット』と『横カット』が、ほかの球種により、さらに輝きに放っているというわけです。

次回は、『ピッチトンネル』という理論を元に、大瀬良大地選手の伝家の宝刀『カットボール』をより詳しく分析してみたいと思います。

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高島誠(たかしま・まこと)
広島県東広島市の西条町にある、野球専門のトレーニングジム「Mac's Trainer Room」の代表。オリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)、MLBワシントン・ナショナルズのトレーナー経験があり、現在も数多くのプロ野球選手とトレーナー契約を結んでいる。趣味はパルクールとサウナで、サウナ・スパスペシャリストの資格も持つ。野球トレーニングのオンラインサロンの運営、【英語】x【身体作り】x【野球】がテーマの中学硬式野球チーム「東広島ポニー」に携わるなど、様々な分野で活躍。「Mac's Trainer Room」のYouTubeチャンネルでは、野球トレーニングに関する動画を公開中。
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