1978年に南海ホークスからカープに移籍した江夏豊。大野氏は憧れの左腕に弟子入りし、投球哲学を学んだ。

 江夏さんは3年間守護神として活躍し、1980年オフにチームを去りました。その後は私が憧れの江夏さんの後を継いで抑えを務めることになり、私は『何とか江夏さんに追いつきたい、追い越したい』という一心で投げ続けていました。ですが、私にはそれができなかったのです。

 周囲からは常に江夏さんと比較されていましたが、当時は江夏さんと同じような投球や成績を残せずとにかく苦しかったことを覚えています。しかし、その苦しさを乗り越えて気づいたことは、江夏さんになろうとしていた自分の甘さです。『自分は江夏さんになれない。自分自身をつくり出していくしかないんだ』と考えるようになりました。技術、経験、メンタルとすべての面で江夏さんよりも劣っているということを素直に認め、『自分の良いところを伸ばしていこう』と考えるようになってからは、マウンドに上がる際の気持ちが全く変わっていきました。