俊足・巧打の外野手として、カープを長年にわたって支え続けた天谷宗一郎氏。広い守備範囲の中で繰り出された数々の奇跡的なプレーは、チームを救いファンを大いに沸かせた、まさに外野手のスペシャリストの一人だ。そんな名手が現役時代にその目で見た、多くのスペシャリストについて語ってもらった。

あの選手が現役一番のスペシャリスト

天才・前田智徳も地道な努力の上に築き上げた2000本安打だった。

—たくさんのスペシャリストたちに囲まれながらも、ここは負けないぞと思っていた点はどこでしょう。

 「球際の強さです。僕は相手バッターに対して大胆に守備位置を変えて守るタイプでした。でもそうするためには、まず洞察力を磨かないとできません。捕手ならば配球のつながり、外野手ならば相手打者の1〜4打席までの打席のつながりで守備位置を考えることがあります。
 たとえば、ある打者が2打席連続で引っ掛けたようなセカンドゴロを打っているなら、次の打席は逆のレフト側に打つことを意識するだろうと予測して、守備位置もレフト側に寄ってみるだとか。そうすることで、ギリギリの打球にも追いつけることが増えるのです」

—外野手ならではの考え方ですね。では、そのほかにもスペシャリストと呼ぶべき選手はいらっしゃいましたか?

 「亀井(善行・元巨人)さんと一緒に自主トレをやらせていただいたときに、打撃練習でストライクではない完全なボール球でも打とうとされていました。どうしてそんな球を打とうとするんですか? と聞いたら『オレは代打だから、絶対にヒットゾーンに飛ばさなきゃいけない。だから全てのボールに対してアプローチをするんだ』という言葉が返ってきました。
 1打席しかない代打で、自分が思い描いたストライクボールが何球来るんだ。せいぜい1球、運が良くても2球ほど。それを完全に捉えなければいけない、時にはボール球でもヒットにしなければいけない。ですから自主トレから、そういった積み重ねをされているんだと感じました。

 ほかには、若手選手の早出練習に混ざって練習をされていた前田(智徳)さん。前田さんのバッティング練習もすごかったです。当時打撃コーチだった町田(公二郎)さんが、マウンドの前から豪速球を投げるんです。2000本以上もヒットを打った選手がそんな練習をされていました。1打席で決めなければいけない代打という仕事のために、若手と一緒になって練習をしている。すごいな、これぞプロフェッショナルだと感じました。

 守備のスペシャリストでいえば(廣瀬)純さん。俊足タイプではないですが、一歩目から打球に対してのアプローチがすごいなと感じていました」

守備のスペシャリストとして天谷が認める廣瀬 純。ライトからの返球は一瞬で本塁まで貫いた。

—では最後に、現在のカープの中でスペシャリストだと思う選手は?

 「上本選手ですね。以前は守備・走塁のスペシャリストと呼ばれていましたが、今では打つ方でもチームに欠かせない存在になりました。ナンバーワン、オンリーワンとよく言いますが、彼は『オリジナルワン』だと思っていて、誰も真似できないチームのピースとなり、上本選手独自の世界をつくり上げています。

 投手、捕手以外は全部守れる。打順も4番タイプではないですが、他は全て任せられるのではないでしょうか。彼はそういう地位を、センスと努力でつくり上げたのだと思います。一定の水準を保ちながら、センターラインを中心としたポジションをソツなくこなせる選手は、ほかにはいませんからね。本当にすごいことで、チームにいてくれるだけでありがたい存在です。

 代打のスペシャリストとして活躍する、松山選手と同等の評価を首脳陣から受けていると思います。ファンのみなさんからしても、上本選手ならどこを守らせても大丈夫だと、安心材料になっていますよね。
 だから、もっと上本選手をファンのみなさんが評価してあげてほしいんです(笑)。周りが思う以上に、上本選手がやっている仕事はすごいことだと思います」

 ⚫️天谷宗一郎(あまや そういちろう)
1983年11月8日生、福井県出身。福井商高-広島(2001年ドラフト9巡目)。俊足強肩巧打の外野手として、現役時代は主にセンターを任されていた。走力だけでなく、打球の読みと素早い反応で広い守備範囲を誇った。またギリギリの飛球をダイビングキャッチするのは、天谷の代名詞といえるプレーだった。2018年に現役を引退し、現在はRCC中国放送の野球解説者として、カープの試合を見守り続けている。