2023年、元日。初優勝の歓喜に湧く桐蔭横浜大の輪の中に、中野就斗の姿はあった。大学日本一という結果を携えトップチームに加入した今シーズン。即戦力として期待されたDFはシーズン序盤から出場機会を得ると、日本代表クラスの相手にも当たり負けないフィジカルの強さを遺憾なく発揮し、瞬く間に先発メンバー入りを遂げてみせた。「思った以上に高かった」というプロの壁にぶつかりながらも、戦いのなかで成長を続ける中野就斗が、プロ1年目のシーズンを振り返る。

(インタビューは2023年10月に実施)

2023年4月19日、ルヴァン杯神戸戦でプロ初ゴールを挙げた。

◆プロのレベルの高さを痛感しながら、成長の手応えに『楽しさ』も見出したシーズン

ー中野選手は大学在学中の2022シーズンにサンフレッチェへの内定が決まり、特別指定選手となりました。エディオンスタジアム広島での開幕戦(2022年2月19日・鳥栖戦)では、56分に藤井智也選手(現・鹿島)に代わり途中出場。Jデビューも果たしています。今シーズンはルヴァン杯グループステージでプロ初得点(4月19日・神戸戦)も挙げ、夏場以降はスタメンでの出場機会を増やしました。改めて、プロ選手としてプレーしたこの1年間を振り返って、今のお気持ちはいかがですか。

「一言で言うと、本当に『あっという間』でした。そのあっという間のなかにも、素晴らしい経験をたくさんさせてもらっていると感じています。ありがたいことに1年目からたくさんの試合に出場させていただいて、様々なポジションも経験させてもらいました。これまではCBでプレーすることが多かったのですが、WBという新しいポジションにも挑戦させてもらっています。スタメン出場、途中交代など、試合の展開や出場するタイミングによってもそれぞれ難しさはありますが、そうした今までできなかったことを新しく経験できていると感じています」

ー『新しいポジションに挑戦させてもらった』というお話でしたが、いわゆる本職ではないポジションもあったかと思います。未経験のポジションに適応するために、苦労されたことや戸惑ったこともあったのではないでしょうか。

「そうですね。やはり、新しいポジションでプレーする難しさは感じました。特にシーズンの前半は、自分自身、自信のなさもあったと思います。ですが、出場機会を重ねるにつれて徐々に自信を持ってプレーすることができるようになってきたと感じています。もちろん最初からすべてが上手くいくとは考えていませんでしたが、実際にプロの世界に入ってみると、やはりレベルの高い世界なんだなということを痛感しました。ただ、それも含めて『楽しい』とも感じていましたね」

ー具体的に、どのような部分を『楽しい』と感じたのでしょうか。

「自分自身が少しずつ成長している実感が持てたことです。それによって自信がつき、試合でも結果が出るようになってくると、やはり『やって良かった』と改めて感じられるようになりました」

ー『レベルの高い世界だと感じた』ということですが、プロの世界に入って驚いたこと、逆に、うれしかったことはありますか。

「まずは、日常の練習のレベルの高さですね。今までに経験したことがなかったのですごく驚きましたが、その環境のなかでサッカーをするのは小さい頃からの夢でもあったので、そういう部分でも、やはりプロになれて良かったと毎日思いながら取り組んできました。頑張ってここまで来て良かったと思いますし、ここからもっと頑張って活躍していきたいという気持ちにもなります」

ー今シーズンの後半戦では、スタメン出場の機会も増えてきました。当初、なかなか自信が持てなかったというところから現在の位置をつかむまでに、中野選手のなかでターニングポイントとなる試合や、出来事はあったのでしょうか。

「7月にしばらく試合のない期間があったのですが、その間に自分のプレーや試合をしっかり見直すことができたのが、一つの大きなポイントだったのではないかと思います。正直なところ、大学時代はここまで大きな壁にぶつかることはありませんでした。中断期間は、『自分は何ができていなかったのか』といった部分を含め、ある程度整理することができた期間だったと思います。そうして整理し、クリアできた部分をオフ明けの練習で自信を持って出せた結果、徐々にスタメンで起用してもらう機会も増えてきたのではないかと捉えています。難しさはありましたが、しっかり整理して取り組むことで、プロの世界のなかで少しずつ成長することができたのではないかと思います」

ープロ初ゴールは2023年4月19日のルヴァン杯・神戸戦。東俊希選手のクロスを中央付近で鮎川峻選手(現・大分)がスルーし、中野選手のもとに届いたボールを冷静に決め切りました。あのシーンを振り返ってみていただけますか。

「直感的に『力強いシュートを打とう』と思って、思い切り振り抜いたことを記憶しています。あの瞬間は冷静にボールを受けることができましたし、しっかりと良いところに打つことができたと思っています」

ーあの日の試合では、試合後のヒーローインタビューにも選ばれました。スタジアムに集まった大勢のファン・サポーターの前で、インタビューに答えた感想はいかがでしたか?

「これまであんなにたくさんの人の前で話をする経験があまりなかったので、緊張しました。ですが、やっぱりうれしかったですね」

ー2023シーズンは、試合のたびにサポーターの動員数も増えている印象です。紫に染まったスタジアムでプレーをする感覚はいかがでしょうか。

「本当にたくさんの方たちに応援していただけていると思いますし、幸せなことだと感じています。ピッチに立つ選手たちにとっても、みなさんの声援は本当に力になっています。特に、試合に勝ってサポーターのみなさんと勝利を分かち合える瞬間は、やっぱり良いなと思いますね」