新井貴浩監督初年度となる2023年シーズン、カープは開幕前の下馬評を覆す戦いを展開し、5年ぶりとなるAクラス・リーグ2位で戦いを終えた。

 常に新井貴浩監督の隣で戦況を見つめ、監督とともに全力で喜びを表現する。 2023年のカープの風景には藤井彰人ヘッドコーチの姿があった。 新井監督とは同学年、現役時代は同じユニホームでプレーした戦友だ。 初のヘッドコーチという立場で新井監督を支え続けている男は どのような考えでチームを見つめてきたのか?

 ここでは昨年シーズン終盤に聞いた藤井ヘッドコーチの声を改めて振り返る(取材は2023年9月/全2回・後編)

2023年シーズンよりカープのヘッドコーチに就任した藤井彰人コーチ。

◆選手ともコーチ陣とも 密にコミュニケーションを図る

─今シーズン、印象に残った試合があれば教えてください。

「神宮での開幕戦から4連敗してしまいましたが、マツダスタジアムで初勝利した試合(4月6日・阪神戦)はうれしかったですね。僕としてもカープでの初勝利でしたし、忘れられない試合ですね」

─藤井ヘッドコーチは新井監督との連携でどんなことを意識されているのですか?

「現場を見過ぎると、準備で遅れてしまうことがあります。僕らは常にその次の手を考えておかないと選手が戸惑ってしまうので、先を見た段取りを考えるために試合中は会話をしています」

─藤井ヘッドコーチが感じている、新井監督のすごさを聞かせてください。

「新井監督はチームを『家族』と表現していますが、本当に家族のお父さんだなと思います。相手がどう考えているのか、人の気持ちが分かる、すごく気が遣える人でしょうね。僕が選手だったらありがたいだろうなと思うくらいです。いろいろな監督を見てきましたが、また新しいタイプの監督だと思います」

─試合後の新井監督のコメントは、前向きな発言が多いことが印象的です。

「終わったことは終わったことですからね。ミスをしても次に向けて良いプレー、貢献できるプレーをいかにしていくかを選手には考えてほしいです。監督はすべての選手に期待しています。選手に対しては『思い切りプレーしてくれ』という、ただその気持ちだけだと思います」

─藤井コーチにとってカープは5球団目(近鉄、楽天、阪神、BC福井)となります。カープというチームで戦ってみた印象はいかがですか?

「外から見ていたとき、対戦していたときは結構淡々とプレーしているイメージだったのですが、実際に中に入ってみると選手はみんな素直だと感じましたし、すごく明るいなと思います」

─初のヘッドコーチですが、バッテリーコーチと違う難しさはありますか?

「難しいことばかりで、なかなかうまくいかない部分はあります。チーム全体のいろんな情報が入ってくるなかで、どうすれば課題を改善できるのか? どうすれば選手たちが良い方向に動いてくれるのか? など、バッテリーコーチとはまた違った意味で考えることが多いですね。すごくやりがいはありますし、試合に勝ったらうれしいです。選手が喜んでガッツポーズをしたり、なかなか盗塁ができなかった選手が思い切ってチャレンジしたときや、若い選手たちの勇気あるプレーを見ているとベンチのなかで感動します」

─指導する上で一番大事にされてることを聞かせてください。

「就任会見のときにも言わせてもらったのですが、コーチ側からの一方通行はいけないと思っています。選手たちが『本当はこうやって練習したい、プレーしたい』と思っていたとしたら、その考えをこちら側が理解してあげないといけません。なのでコミュニケーションが大事だと考えています。もちろん練習をすればうまくなると思いますが、コミュニケーションが取れていることでそのスピードが変わってきます。選手と意思疎通が取れていれば、こちらからもいろいろな提案ができます。僕らはその選手の感覚になれないわけですから、やはり選手とのコミュニケーション。これが大事だと思っています」

試合前練習で、野手陣とコミュニケーションを取る藤井彰人ヘッドコーチ(写真右)

─首脳陣のスタッフのみなさんとのコミュニケーションはいかがですか?

「試合を振り返ったときに、『あのミスはどうだった。あのプレーは良かったから褒めてあげてくれ』だとか、選手たちのプレーを見ていて感じたことは各コーチと話をしています。そのなかで、マイナスなことを選手に言うのではなく、たとえば1つの打球に突っ込んで捕球できなかったことを指摘するのではなく、積極的にチャレンジしたこと、それを評価してあげてくれと。そういう形でコーチ陣とはコミュニケーションをとっています」

藤井彰人●ふじいあきひと
1976年6月18日生、大阪府出身。近大付高-近畿大-近鉄(1999〜2004)-楽天(2005〜2010)-阪神(2011〜2015引退)/コーチ歴 BC福井(2016)-阪神(2017-2022)-広島(2023〜)。現役時代は3球団、17年間にわたり捕手としてプレーし、通算1073試合に出場。阪神時代には同学年の新井貴浩監督とともにプレーした。引退後はBC福井、阪神でバッテリーコーチを歴任。広島では2023年に初のヘッドコーチに就任。新井監督の参謀としてチームを支えた。