悲願の新スタジアムでの開幕戦を勝利で飾ったサンフレッチェ広島。スキッベ監督のもとで迎える3シーズン目、もちろん目指すは2015年以来の『J1制覇』だ。

 ここでは、過去3度のJ1リーグ優勝に大きく貢献した佐藤寿人氏の言葉で、2012年の初優勝を振り返る。優勝の瞬間、広島が誇るエースストライカーが感じた思いとは。

(「広島アスリートマガジン」2021年収録記事を再編集)

平和大通りで行われた優勝パレードで、シャーレを掲げる佐藤寿人氏。

◆スタジアムDJの声で勝利を確信。ピッチに突っ伏して涙を流した

 2012年、広島は開幕から得点を重ね、第5節のガンバ大阪戦でJ1通算100得点を達成することができました。

 ゴールパフォーマンスの『100』の人文字は、試合前に、チバちゃん(千葉和彦)や(森脇)良太、(髙萩)洋次郎たちが、ホワイトボードの相手の布陣図の下に『設計図』を書いていたんです(笑)。

 千葉ちゃん、(石原)直樹の加入もアクセントになりました。そして、忘れてはいけないのは、第17節・磐田戦でのナカジさん(中島浩司)です。千葉ちゃんの加入で控えになっても準備を怠らず、71分に交代出場して76分に先制点を決め、2-0の勝利に貢献。この年は2試合、88分間しか出場していない中での貴重な得点で、僕は優勝につながったビッグプレーだと思っています。

 終盤は仙台との優勝争いで、複雑な心境だったのと同時に、大きな重圧を感じていました。こんな千載一遇のチャンスを逃したらどうしよう、という不安を打ち消すのに必死でした。

 第33節、ホームでのセレッソ大阪戦。僕たちが勝っても、仙台が負けなければ優勝は決まらないので、最終節までもつれるだろうと思っていました。でも……、4-1の勝利で試合が終わりベンチを見たら、誰かが飛び跳ねたんです。ただ、何を信じていいのか分かりません。最終的には、スタジアムDJの声で優勝を確信したと記憶しています。ピッチに突っ伏して泣きました。リーグ優勝できる日が来るなんて、本当に夢のようでした。

 でも、この日に決まると思っていなかったので……テレビ各局の優勝特番では、スーツのベルトをせず、革靴も履いていませんでした(笑)。それでも最高の気分でしたね。

 最高といえば、選手・スタッフ全員で入場したJリーグアウォーズ。MVPや得点王などの個人賞もいただきましたが、あれが一番うれしかったです。それまで優勝クラブの全員が入場する様子を見てきて、みんなで来たいと思っていたので、実現できて感無量でした。

 優勝パレードの光景も忘れられません。たくさんの方が準備してくれて、広島の街が紫に染まっていました。遠くのビルにいる人でも、みなさんの顔はよく見えるんですよ。僕が手を振ると、誰もが振り返してくれるので、「いま選挙に出たら当選するな」と思ったりもしました(笑)。ついに初タイトルを獲得しましたが、これだけでは終わりませんでした。

(続く)

●プロフィール
佐藤寿人(さとう ひさと)
1982年3月12日生、埼玉県出身。市原(現千葉)ユースから2000年にトップ昇格。C大阪、仙台を経て、2005年にサンフレッチェに移籍。3度のリーグ優勝に貢献し、2012年にはMVPと得点王を獲得した。2017年に名古屋に移籍し2019年からは千葉でプレー。2020年限りで現役を引退。現在は指導者・解説者として活動している。