長いドラフトの歴史の中で、カープスカウト陣はこれまで独特の眼力で多くの原石を発掘してきた。ここでは、かつてカープのスカウトとして長年活躍してきた故・備前喜夫氏がカープレジェンドたちの獲得秘話を語った、広島アスリートマガジン創刊当時(2003年)の連載『コイが生まれた日』を再編集してお送りする。
今回は、2023年からカープを率いる新井貴浩監督。1998年ドラフト6位でカープに入団。1年目から一軍で本塁打を放つなど存在感を見せると、猛練習でポジションを掴み取り、2005年には本塁打王に輝くなど球界を代表するスラッガーに成長。2015年にカープに復帰すると、2016年にはシーズンMVPに輝き、25年ぶり優勝に大きく貢献した。ここでは、元スカウトの備前氏が当時語った新井監督の獲得秘話とは?
◆ドラフト直前も、スカウトの評価は決して高くなかった
駒沢大から入ってきた新井ですが、彼のことは広島工高時代から「遠くへ飛ばす力のある打者」ということで聞いていて、同い年で広陵高にいた二岡(智宏、元巨人)や福原(忍、元阪神)同様、リストには上がっていました。
実際に見てみると、確かに良いものは持っていました。当たればすごい距離を飛ばす。ただその大きな打球が出るのが、確率にしてみたらものすごく低く、高校ではレフトを守ってましたが、外野守備はドラフトで指名するレベルではありませんでした。それで(成功するのは)並大抵の努力ではダメだろうと思って、大学で4年間鍛えてもらって変わってくればということで、(指名を)見送ったんです。
しかしドラフト直前も、スカウトの評価は決して高くありませんでした。高校時代からの「飛ばすけど粗い」「守備のレベルが低い」という課題はあまり克服されていなかったのです。
特に、守備面が一番の問題でした。「どこを守らせればいいんだろうか」というのが正直な所だったんです。大学では監督さんが彼の打撃をなんとか生かそうと思って、ファーストの他レフト、サードも守らせたようですが。
我々スカウトから見たら、「サードだと189センチと長身ゆえに上体があるので、プロではとても使えんだろう。かといってファーストにしておくほどの打撃ではないし、外野ならどうかなぁ」と非常に悩まされる選手でした。
正直言うと、(指名を)見送ろうというところまでいってたんです。しかし会議直前になって「〝一発長打〟という魅力を中心に考えれば、とても面白い選手なんじゃないか」という意見が強くなって、「じゃあその一発長打を期待して」ということで、指名することになったんですよ。
カープが指名に踏み切った最大の理由、それはプロ入りに対してとても前向きで「プロに入りたいんだ」という気持ちが非常に強かったことです。球団も地元(カープ)でやりたいということでしたし。
素質も当然大事ですが、指名されてプロに入るかどうか悩む選手より、「指名されたら絶対頑張る」という選手の方が伸びてくれると思いますよね。まさに新井はそんな選手でした。新井の第一印象は「大きいなぁ」でした。それで「これだけ大きけりゃたくさん食べるだろう。その食べる分くらいは稼いでくれよ」と話をしたのを覚えてます。