2023年6月16日、カープ黄金期にエースとして活躍し、引退後も愛のある解説で多くのファンに慕われた北別府学氏が、惜しまれながらこの世を去った。没後2年の今、改めて『精密機械』投手の足跡を振り返っていく。

　今回は、北別府氏の現役時代に正捕手を務めていた達川光男氏のインタビューを再編集してお届けする。達川氏が語った、現役時代の思い出と北別府氏への思いとは。（全2回／第1回）※広島アスリートマガジン2023年8月号掲載

正捕手として『投手王国』を支えた広島のレジェンド、達川光男氏

◆最初は必死で投げたい球を探して受けていた

　年齢は私が２つ上ですが、入団は北別府が２年先です。初めて会ったのは、彼が５年目の秋でした。ちょうど、彼は先発ローテーションに入りかけるぐらいの時期です。私が彼と数多くバッテリーを組むようになったのは1983年頃で、私が現役引退する1992年まで10年間、受けさせてもらいました。私の野球人生のなかで、一番受けた投手だったかもしれません。

　プロ野球は職業野球です。『ファンを喜ばせなきゃいけない』と考えたとき、ファンが喜ぶことは『試合に勝つということ、優勝することだ』と彼は信じてやっていたように感じます。他の投手陣もそれぞれのやり方でやっていましたが、彼の“１球にかける思い”は本当にすごかったです。練習のときから、人を寄せ付けないオーラを醸し出していました。

　話しかけるのは、『今日どういうサインで行くか』などを打ち合わせするために、キャッチャーである私くらいだったかもしれません。私自身、それでも彼に気を遣っていましたが、みなさん分かっていて、ベテランの山本浩二さん、衣笠祥雄さん、水谷実雄さんらも気を遣って、話をしたりはしなかったです。それだけ張り詰めたムードを醸し出していました。

　私がキャリアを積んでいけばいくほど、お互いの呼吸は合っていきましたが、最初は必死に『北別府が投げたい球は何か？』という感じで、投げたい球を探していました。

　精密機械と呼ばれていたように、本当にコントロールが良い投手でした。思い返せば、彼が200勝に近づいた頃から一度、球を受けることが怖くなったこともありました。それは、サインの要求通りに球が来るので、自分の考えが読まれて、打たれたりすると……それが怖くなることがありました。彼のコントロールを知りすぎているからこその恐怖という感覚でした。

　印象深いのが、優勝争いをしていたあるシーズンの阪神戦のことです。

　１点勝っていて９回表一死満塁で、ランディー・バースを迎えました。バースがピッチャーゴロを打って『ホームゲッツーで終わった！』と思って投げたら、私は一塁へ大暴投……。打者以外のランナーはすでに走っていて、１点勝ち越されて北別府が負け投手になってしまったのです。

　だから、僕の中で彼は『214勝投手』（※北別府氏は通算213勝）だと思っています。彼はどう思っていたか分からないですが、さすがに私も当時は落ち込みました……。