第107回全国高校野球選手権山梨大会の決勝が23日に行われ、山梨学院が日本航空に勝利し、春夏連続での甲子園出場を決めた。
ここでは、通算11度目の夏の甲子園出場となった山梨学院のある取り組みを紹介する。6月29日、ここまで二季連続で山梨県大会の決勝を戦った、山梨学院高と帝京第三高の試合が、YBS山日球場で行われた。同じ都道府県を代表する強豪校同士の試合が、夏の大会を前にした時期に行われるのは珍しい。
この試合は「Last Game」と銘打たれ、2018年から行われる、夏の大会で20人の大会登録メンバーに入ることが出来なかった3年生に用意された「引退試合」である。全国にも同様の取り組みは数多く見られるものの、山梨学院高の「Last Game」は今年、「最後の夏」という副題が付いている。
メンバー外の選手たちはこの試合を「メンバー入りを懸けた最後のチャンス」と位置付けたり、家族の前で高校野球の集大成を見せ、感謝を伝えたいと意気込んだり、特別な一戦として位置付ける。山梨学院高校を率いる吉田洸二監督は、「この試合の度に、生徒一人ひとりにそれぞれの家庭があり、様々な思いを背負って野球に取り組んでいることを感じます。選手たちの思い出作りの場であると同時に、私自身も多くのことを学ばせてもらっています」と語り、この試合には大きな意義を認める。
しかし、「最後の夏」という副題が示す通り、今年を最後に引退試合の開催はしないことを決めているという。
山梨学院は2023年の春にセンバツ高校野球で全国制覇を成し遂げた、全国でも有数の強豪校だ。この野球部の門を叩く選手たちは、多くが中学時代にその名を馳せた「逸材」であることは想像に難くない。吉田監督のこの決断は、高校野球の構造によるところもある。高校野球の夏季大会は北海道や沖縄を除いて、6月半ばに抽選会が行われるため、それまでに一度、大会の登録メンバーを決める必要が発生する。7月半ばの大会開幕までに故障などを理由にメンバーの入れ替えは可能だが、一度「メンバー外」を告げられての調整は難しい。
つまり、メンバー外となった選手は、外から見るよりも約1ヶ月、登録メンバーのサポートに徹する期間が長いのである。吉田監督は、「Last Gameは素晴らしい企画である一方で、早い段階で『あなたは補欠です』と決めてしまうことになります。今日も、大友(陸)投手が、『あの選手をメンバーに入れなくて、誰を入れるの?』という素晴らしいピッチングを見せてくれました。来年からは最後の最後まで、練習試合で選手たちの状態やパフォーマンスを見極めたいです」と話す。
この日の山梨学院は5人の投手が登板したが、大友投手を含め、3人の投手が140キロ台の速球を見せた。その中には甲子園で148キロを投げて注目された、山岸翔輝投手や、春の選抜でリリーフとして活躍した板東慶寿投手の姿もあった。このように、全国制覇を現実的な目標とするチームにとって、登録メンバーとメンバー外の差は紙一重だ。そして、Last Gameに出場した選手たちも、大会直前や甲子園でのベンチ入りを目指し、腕を磨き続けるのだ。
吉田監督は、前任の長崎県立清峰高校でも今村猛投手(元広島東洋カープ)を擁して春の選抜を優勝した名将だが、夏の優勝はまだない。悲願の夏制覇に向け、「もう少しメンバーとメンバー外の差があるチームなら、引退試合も良いと思いますが、大阪桐蔭や横浜といった、トップレベルのチームはこういったことをやりません。山梨学院もそのレベルに向かっていきたいと思っています」と、Last Gameの歴史に別れを告げ、前進していく。