サンフレッチェ広島ユースで育ち、中央大から金沢、C大阪を経て2023シーズン半ばに凱旋を果たした加藤陸次樹。多くのサポーターに愛される背番号『51』は、激しいタイトル争いを演じたチームを献身的に支えてきた。一度は「広島を見返したい」という思いも抱いたという加藤が、いま改めてクラブへの思いを語る。(全2回/第2回)

ルヴァン杯優勝に貢献した加藤陸次樹

広島で取り戻した自身の良さ

ー今シーズンは難しさやもどかしさを感じつつも、9月3・7日のルヴァン杯プライムラウンド準々決勝・湘南戦では、第1戦、第2戦と2試合連続ゴールもありました。苦しんだシーズン前半、加藤選手が改めて取り組んだものはありますか。

 「試合に出ることのできない期間は、『試合に出ている選手と同じ練習をしていたら自然と差がついてしまう』と思って、トレーニングが終わった後に『今の自分に何が必要なのか』を考えて、足りないところを補えるように努力はしました」

ーモチベーションの面で難しい部分もあったのでは?

 「そうですね。いきなり試合に出れないとなると、一瞬、メンタルの面でも非常に難しい部分もありました。僕はそこですぐ切り替えて努力に変えていけるタイプの選手ではないので、自分のなかで『何が悪かったのか』を考える時間がすごく多くなりました。それを考えて、表(おもて)に出して、はっきりとさせた上でトレーニングに取り組みました」

ースキッベ監督のもとで、加藤選手が自身の成長を感じた部分はありますか。

 「自分自身もともと強度高くやるタイプだと思っていたのですが、スキッベ監督のもとでは走ることや球際、FWとして起点になる動きや背後に抜ける動きを常に求められます。そこは僕自身、忘れかけていた部分でもあったので、広島に復帰して改めて自分の良さを取り戻せたと感じています」

ー加藤選手は広島ユース出身ですが、ユースからトップチーム昇格とはならず、大学卒業後も広島からのオファーはありませんでした。広島復帰時には『他のクラブで活躍して、見返したい思いもあった』と話していましたが、今の加藤選手にとって、サンフレッチェ広島とは改めてどんな存在、場所になっていますか。

 「思い入れがあった分、もともとは広島への反骨心のようなものがあって『打倒広島』ではないですが、いつか見返してやりたいという、そのくらいの気持ちがありました。ただ、今はそれとはまた別に、なんて言うんですかね……『恩返しをしたい』という気持ちでしょうか。1試合1試合を勝つこともそうですが、いちばん歴史に刻まれたり、結果として残るのはタイトルを獲ることなので。ここからはタイトルという形でも、このクラブに恩返しをしていけたらと思います」

ー広島復帰時は、エディオンスタジアム広島(現在のホットスタッフフィールド広島)がホームスタジアムでした。その後エディオンピースウイング広島(以下、Eピース)にホームが移りましたが、Eピースでプレーした印象はいかがですか。

 「すごくホームを感じられる雰囲気がありますし、臨場感もあって素晴らしいスタジアムだと思います。ただ、僕にとってはユース時代から自分たちの目指すべき聖地としてプレーしていたのはエディオンスタジアム広島でしたし、実際にあそこで広島の優勝も見てきました。その頃の良い思い出を今も鮮明に覚えているので、僕のなかのエディオンスタジアム広島での思い出を越えるためにもEピースでタイトルを獲って、これから新しい歴史をつくって塗り替えていきたいという気持ちもあります。チームの誰もがタイトルを獲りたいという思いを持っていますし、そこに向けて準備をしています。2024シーズンは本当に悔しい思いをしましたし、終盤にかけてうまくいかないところもありました。あの悔しい気持ちが次のステップに向かう過程のひとつであり、自分たちを成長させてくれる糧になると感じています」

■加藤陸次樹(かとう・むつき)
1997年8月6日生 (28歳)、埼玉県出身
180cm/72kg 、FW
広島ユースー中央大ー金沢ーC大阪ー広島
ユース時代から世代別代表に選出されるなど注目を集める。2020年に金沢でプロキャリアをスタートすると、2021年にC大阪へ完全移籍。2022年のルヴァン杯決勝では広島と対戦し、先制ゴールを決めた。2023年夏、広島に完全移籍加入。ユース時代以来となる広島復帰を果たした。